EMP(電磁パルス)攻撃は今や、最も可能性がありかつ破壊度の大きい重大な脅威になっている。その脅威の実態と対策について、John S. Foster, Jr. etc「特別報告2004年」『米国に対するEMP攻撃の脅威評価に関する委員会報告』第1巻、2004年に基づき、分析する。
1 EMP攻撃への対策の必要性
EMP攻撃は、核爆発時に瞬時に発生し、その威力は水平線までの広範囲に届き、死活的なインフラ、先進国の社会およびその影響力と軍事力投射能力に深刻な損害を与える能力を持つ。
人命に直接の損傷は与えないが、それだけに使用される可能性も高く、核爆発によりもたらされる恐れのある、数少ない脅威の1つである。また現在では、通常爆弾でも致命的なEMPを発生する特殊な爆弾も開発されている。
EMPの直接的な衝撃は、防護されていないすべての電子機器に波及する。その結果EMPは、電子機器に依存する社会と軍隊のあらゆる側面、および各種の死活的なインフラに浸透することになる。
先進国では、電子機器への依存が深まり、それにつれてEMP攻撃に対する脆弱性が日々増大している。
EMPの衝撃は、電子機器にそれほど依存しない潜在敵対者にとっては、非対称に作用する。このような先進国の脆弱性が是正されなければ、潜在的な敵対者の攻撃を誘発しかねない。他方、EMPに対する脆弱性の是正は、国家が持っている手段と資源の中でも達成が可能であり、それゆえに早急な対策が必要不可欠である。
2 EMP攻撃の脅威
1発の米国上空の高高度核兵器爆発により発生したEMPにより、米国の社会の安全が危機に曝され、軍事的敗北を招きかねないと、米国の上記報告書はEMPの脅威を強調しているが、そのメカニズムは以下のとおりである。
1発の核爆発で発生したEMPは、地球上の大気、イオン層、磁場と相互作用を発生するが、その効果には直接、間接の両面がある。直接的効果は電子機器への衝撃である。間接的効果は、衝撃を受けた電子機器の破壊により、それらが組み込まれたコントロールシステムなどに与える影響である。間接的な効果は、直接的効果よりもその影響は大きい。
電磁波の衝撃により電子機器を破壊するというEMP攻撃の特性により、主要なインフラに連鎖的効果が発生する。そのため、連鎖的影響を受けた各種のインフラの復旧は遅れ、安全が損なわれ、国家活動も低下することになる。
まず電力インフラが損害を受け、通信、エネルギー、その他のインフラに波及し、金融システム、食料と水の供給、医療提供、貿易、生産活動とサービス業などに深刻な影響が出る。さらに電力などの供給停止が長引けば、これらの各種インフラの復旧も不確実になる。また供給停止が複合効果を持てば、復旧が不可能になる恐れもある。
3 EMP攻撃を行ない得るアクター
EMPは新しい脅威だが、かつてのソ連と現在のロシア、その他の核保有国は潜在的にEMPをもたらす能力を持っているが、核兵器の効果としては破壊力を主としており、EMPは副次的効果として扱われているに過ぎない。
冷戦間米国も、EMPによる民生用インフラの破壊は試みず、市民の安全を確保しつつ抑止することを目指したとされている。しかし現在は冷戦時代とは異なり、EMP脅威の発生源の一部、テロリストなどは抑止が困難であり、数発の核兵器しか持たない北朝鮮やイランもEMP攻撃の能力を開発している可能性があるとみられている。
ある種の低出力の核兵器は広範囲にわたりEMP効果を及ぼし得るが、そのような設計をされた核兵器が過去25年間に秘密裏に輸送された可能性がある。
中露は限定的核攻撃の選択肢を持っており、状況によってはEMPを主たるまたは唯一の攻撃手段として行使する可能性がある。1999年のNATO(北大西洋条約機構)のユーゴスラビア攻撃時、米国との協議でロシア議会議員は、米国を麻痺させるロシアのEMP攻撃の可能性を示唆したとされている。
過去との相違のもう1つの局面は、米国が他の国以上に電子遠隔通信に各種の死活的インフラを依存するようになったことである。