「張成沢(チャン・ソンテク)処刑以後、金正恩(キム・ジョンウン)からの具体的な指示はない」。2014年2月4日付「産経新聞」電子版で、張真晟氏が平壌通信員からの報告をもとに金正恩政権の求心力が急速に弱体している現状を生々しく伝えている。

 1月5日に綱紀粛正に乗り出した朝鮮労働党組織指導部は、全国での党員登録再調査事業を開始したが、配給がない職場から離脱している党員が多すぎて調査は半月で頓挫してしまったという。

 中でも注目されるのが、張処刑に関連して大規模に実施されるとされていた粛清が、「金正日時代の粛清のように、全国一斉に一派が政治犯収容所に引きずられていくような恐怖政治は起きて」おらず、その理由が「最高決裁権者の権力空白のため」だという点である。

国家の威信喪失に直結した「デノミ失敗」

 北朝鮮でなぜこのようなことが起きているのだろうか。

 そのヒントは、「2009年に行われたデノミ失敗の責任を問われ処刑されたとされる朴南基党計画財政部長をそそのかして、数千億ウオンの北朝鮮通貨を乱発させた。これによりおびただしい経済的混乱が起きるようにし、民心が乱れるように背後で操った張本人である」とする張成沢に対する死刑判決の罪状にある。

 2009年11月、金正日は1959年以来50年ぶりとなるウオンのデノミネーション(通貨呼称単位の変更)を予告なしで実施した。その具体的内容は、「旧通貨100ウオンを新通貨1ウオンと交換するが、交換可能な額の上限を10万ウオンにとどめる」というものだった。

 金正日が目をつけたのは、2002年の市場取引の拡大により新興富裕層が蓄積した資金の吸い上げだった。金正日はデノミ実施とともに外貨の使用を禁止、それまで認めていた「総合市場」の閉鎖も打ち出した。