2014年が本格的に動き出したところで、自動車産業界を中心にいま日本が直面している状況について、簡単に整理しておこうと思う。
円安誘導による急速な為替レートの変動によって、輸出に多くを負っている自動車メーカーの収益は「劇的」と言ってもいいような改善を見せている。ただしこれは想定していた為替レートからの変動が大きかったことによって生ずる「瞬間風速」に過ぎない。今後も円安が高収益に直結することを期待できるか、さらには円安が日本全体の経済の活性化に結びつくかを見わたすと、様々な不安要素が浮かび上がってくる。日本にとって適切な為替レートはどのあたりなのか、もう少し深く考えて導き出し、調整局面に持ち込むことが急務だ。
「円安=輸出産業の収益改善=日本経済全体が潤う」という単純な等式は成り立たないことは、現状の観察から簡単に浮かび上がって見えるのだが、そこを冷静に見て、論じる関係者やメディアは少ない。
自動車メーカーの動きを見ると、「収益が大きく改善されたことは歓迎する」けれども、それを「日本全体の経済の活性化に結びつける」という話になると、極めて消極的になる。
今期末の純利益が史上最大になろうかというトヨタ自動車にしてからが、社員に向けて「今期の利益は多額になるが、それは円安差益によるものであり、またこれまで積み重ねてきたコスト削減の成果であって、この段階で給与を増額することは適切でない」といった内容のメールが配信されたと聞く。政治とメディアの雰囲気が「好況に転じた分を社員の給与に配分することで消費が活性化され、国内経済を上向きにさせる。“アベノミクス”効果がここで表れる」と強く示唆しているから、それを無視するわけにはいかないだろう・・・と、何らかの給与増額は行うだろうが、本音としては「一時金で済ませて、ベースアップは最小限に」なのは明らかだ。
原材料費の高騰でサプライヤーは収益悪化
この問題の根はもっと深く、自動車メーカーが円安に潤っても“アベノミクス”効果が日本全体に広がるのはそう簡単ではない。その現実は、自動車産業界の実態を表面だけでも知っていればすぐに理解できる。