ここ数回、長期的な観点から安全や安心をどう担保するか、といった問題を検討しているわけですが、ここでいったん、貨幣とか資産といったものの「価値」そのものについて、原理的なところから検討し直してみたいと思うのです。
お金の価値は何が決める?
かれこれ15年ほど前になるでしょうか、33歳までフリーランスの音楽家でしかなかった私が、いきなり大学に呼ばれ、物理出身だからコンピューターくらい教えられるだろうというご無体な大学の決定で(そういうことを東京大学というところはするのです)「情報処理」という科目を担当することになった。
その初期に、文理融合の情報学という枠組みで、大学内外のいろいろな先生にご協力いただいて、様々なビデオ授業コンテンツを作りました。
小宮山宏工学部長(当時)とご一緒した「環境システムと情報」、先端研を定年されたばかりの野口悠紀雄さんにお話しいただいた「ファイナンスと情報」、玉井克哉教授の「知的財産権と情報」など、いま見返しても全く古びない良い内容の5~10分番組をたくさん作りました。
白川英樹教授、楊振寧教授、ジェローム・フリードマン教授などノーベル賞受賞者にも惜しみないご協力を頂いて、2000~2006年にこのコースを受講した学生諸君は、「なかなか贅沢なカリキュラムだった」と、いまさらながら理解してもらってもいいのではないかと思います。
もっとも履修している最中では、大学のお仕着せ科目、必修の1つでしかありませんから、「ぶーたらくーたら」文句ばかり言ってちっともまじめにやらん学生も珍しくはなかったですね。
東大生というのは単に入試に受かったというだけで、全く普通の了見の若者に過ぎません。ものの価値を知らん贅沢者どもが、と思いつつ、成績はBまででとどめる仏教官でありましたが・・・。
そんな中でも、とりわけ思い出深いのが、当時東京大学経済学部長を退かれたばかりの岩井克人教授にご協力頂いた「貨幣と情報」というショートレクチャーです。
岩井さんは問われます。
「お金の価値の源泉って、いったい何なのでしょう?」
1円、5円をバカにするな!
ここでは岩井さんに倣って、オーソドックスに貨幣論の2つの古典説からご紹介しましょう。
1つは「貨幣価値説」と呼ばれるもので、貨幣自身に価値があるとするもの。金貨などはそれが成り立ちます。が、現在の日本の硬貨や紙幣には当てはまりません。ちょっと調べてみると、
1円玉・・・原価=3円
5円玉・・・原価=7円
この2つの硬貨は流通する貨幣価値より原価の方がコスト高なのだそうです。