仙台大学で、学生と一緒に新渡戸稲造の『武士道』を読んでいる。

 現代武道学科の3年生2人で、日本のスポーツ文化に武士道精神がどう影響しているかを卒論のテーマにするのだという。それなら、武士道の最良の解説書と言われるこの本から取り組んでみようということになった。ちなみに、私はこの学科の専任教授だ。

 スポーツ文化と武士道というのは面白いテーマだと思う。柔道や剣道などの武道が武士道と深く関わっているのは当然としても、武道以外のスポーツにも武士道が関係しているように見えるからだ。

スポーツの世界に今も息づく武士道

 野球日本代表のチーム名は「侍ジャパン」であるし、米国の大リーグで活躍するイチローには「古武士の風格」という形容詞がついて語られている。

 2009年12月に、サッカー日本代表の岡田武史監督(当時)が翌年のワールドカップに向けて抱負を語ったときに、次のような言葉を残している。

 「根本的に日本人には武士道から始まった強さがあると考えている。だが、社会が便利、快適、安全なので、闘争本能のスイッチが切れてしまっている。再びスイッチが入ればわれわれは十分に戦える。個の技術を高め、われわれの特質である組織を生かすことができれば十分にチャンスはある」

 2010年の南ア大会で、日本代表は岡田監督の指揮下、ベスト16位になった。岡田氏が期待した通り、日本チームには武士道のスイッチが入り、日本人に特質である「組織力」が生きたということだろう。