日産自動車のカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)の役員報酬(2010年3月期)の高額ぶりが話題になっている。6月末に集中した株主総会で開示された日本企業の経営者の報酬としては最高額、8億9100万円とのこと。
同様に高額なのはソニーのハワード・ストリンガー会長兼CEOで4億1000万円、ストックオプションなどを加えればこちらも8億円を超える。
それにしても日産の、言うならばナンバー2、志賀俊之・最高執行責任者(COO)の1億3400万円などと比べても突出した金額ではある。
この額が多いか少ないか、いや少ないという人士はいないだろうから、リーズナブルか過剰かについては、それぞれに見方があろうとは思う。しかし、自動車とその産業について製品や製造、組織など様々な側面からの観察を続けてきた者として、1つの見方をここで書いておこうと思う。
工業製品を購入して使う立場からすれば、2009年に日産が世界で販売した製品(自動車)の総数が335万8413台だから、単純計算で1台当たり265円が、ゴーン氏の報酬と化したことになる。
とかく「(企業の)業績から見れば」「経営者として達成した内容からは」といった議論に偏りがちだが、もっとシンプルに、消費者としてこの金額をどう受け止めるか。全ての日産車を買った人々がゴーン氏にそれだけ支払っている、と見なしてもいいわけだ。
もちろん、日常性の高い大衆車を核としてスケールメリットを追う総合自動車メーカーと、ブランド性を強調する高価格車(今や『高級車』とは言い難い)メーカーとでは、分母になる数量が異なるので、直接比較ができないケースも少なくはないのだが。
しかるに、この265円/台という金額を、読者諸兄姉はどう感じられるだろうか。
私自身は、自動車という消費財においては極めて高い、と思う。感覚的には、日産のような「日常性」のメーカーのトップとしては1桁違うような・・・、という印象である。
ミシュランでの荒療治の実績を買われてルノーへ
もともとカルロス・ゴーン氏は「企業の外科医」であると、私は見ている。
ビジネスに関する基本的な経験を積んだのは、タイヤメーカーであるミシュランの、それも南米子会社だった。
1980年代後半から90年代にかけて、それまでは「フランスに基盤を置くタイヤメーカー」に徹していたミシュランが、世界企業へと展開する動きを見せる。
それは米国の産業形態が変態してゆくプロセスとも重なっていた。米国ではビッグ3の新車装着タイヤはもちろん、リプレース(交換・履き替え)用タイヤも、自国内で育ったタイヤメーカー以外はほとんど認知されていない状況だったのだが、急速に国際化してゆく。
米国第2位のタイヤメーカーだったファイアストンを日本のブリヂストンが買収したのが88年。ミシュランも、BFグッドリッチ=ユニロイヤルという、これも米国では伝統のあるタイヤメーカー2社が合併していた企業を88年に買収する。ファイアストンもBFグッドリッチ=ユニロイヤルも歴史と規模があるものの、当時の米国の製造業の多くと同様に経営や技術開発は混迷に陥っていた。