あまり知られていませんが、日本では2011年より「National clinical data base(NCD)」として、年間120万件にも及ぶ全国の医療機関で行われた手術のデータが蓄積されています。

 実に外科で行われている全身麻酔手術の90%以上が登録されており、これにより全国の施設別、医師別の手術成績を比較することが可能です。

 網羅性の高さと症例数の多さから、多彩な成果を生み出しうる世界的にも注目を集める「日本医療のビッグデータ」と言ってよいでしょう。

 2012年4月からはレセプト(診療報酬明細)の提出も原則としてオンライン化されているので、全国で行われている医療行為の詳細も施設別に集計して比較することが可能です。

 これらの(個人情報を排した)膨大な医療情報の解析により、医師も患者も全ての情報が白日の下にさらされます。

 NCDについては、2013年秋より、施設別/医師別の手術成績表が他施設の平均とともに各施設にフィードバックされる予定です。これにより各施設は客観的な医療水準を知ることができ、術後管理や手術成績の向上への取り組みが行われることが期待されます。

 ただし、これらの情報は一般公開できないとされており、具体的施設を明示した“各病院の手術ランキング”などの形での利用は禁じられています。

 現時点では、世間一般が、全国規模の医療データが明らかにするであろう“不都合な現実”を受け入れられる準備ができていない以上、それは当然の決定なのかもしれません。

明らかになった世界最高水準の日本の手術技量

 7月に行われた日本消化器外科学会においてNCDデータの一部が公開され、日本の手術レベルが世界最高水準であることが示されました。

 日本における直腸がん手術(大腸癌の中では難易度が高いとされる手術)の術後30日死亡率は0.4%、術後90日死亡率は0.9%です。海外の死亡率が3~5%であることと比較すると“衝撃的に“低いことが明らかになったのです。

 同じく胃がんについても、術後30日以内の死亡率は0.9%、術後90日までの手術関連死亡率は2.3%とやはり国際的に最高水準でした。