前回の本コラム「『中国封じ込め』にブレーキをかけるアメリカ海軍」では、増強著しい中国人民解放軍海軍に対してアメリカ軍指導層内部にも「関与政策派」的立場を打ち出している勢力が存在していることを指摘した。それとともに、だからといって何も米軍が「関与政策派」になってしまったわけではなく、依然として「封じ込め政策」的な諸施策も実施されているといった状況も説明した。そのような動きの具体例が、先週発表された台湾軍への「P-3C」哨戒機配備日程の正式決定である。

 7月15日、台湾が4機のP-3C哨戒機を2013年中に手にすることが正式に決定したと、台湾軍当局が発表した。

台湾に引き渡されるP-3C(写真:Lockheed Martin)

 米国から台湾に、2015年中までに12機のP-3Cが引き渡されることになっている。その第一陣として、本年中にまず4機が引き渡されるということである。すでに台湾軍は台湾南部の屏東航空基地にP-3C用の設備と訓練施設を設置して、受け入れ態勢の準備は完了しているということである。

 現在、台湾軍は、旧式の「S-2T」対潜哨戒機を運用しているが、P-3Cの導入により、台湾軍による中国潜水艦に対する探知発見能力は大いに強化されることになる。

台湾、ベトナムに哨戒機P-3Cを配備してほしい米国

 日本の防衛だけでなく、アメリカの極東戦略とりわけアメリカ海軍戦略にとって、中国海軍潜水艦戦力は極めて深刻な障害になりつつある。

 中国海軍攻撃原潜は西太平洋・南シナ海で行動するアメリカ海軍攻撃原潜にとり厄介な存在である。また、海中で待ち構える中国海軍新鋭通常動力潜水艦は、アメリカ海軍空母任務部隊や水陸両用戦隊にとり深刻な脅威である。

 アメリカ海軍自身も攻撃原潜によるこれらの海域での哨戒活動に加えて、偵察衛星や偵察機により潜水艦基地周辺を厳重に監視したり、九州から台湾そしてフィリピンにかけて設置されていると考えられている「SOSUS」(海底設置音響探査網)の情報を分析したりすることにより、中国海軍潜水艦の動向には最大限の警戒をしている。

 もちろん、日本周辺海域でのアメリカ空母任務部隊の護衛に抜群の威力を発揮させるよう“育成”してきた海上自衛隊の対潜水艦戦能力を活用しない手はない。すなわち、海自潜水艦による中国潜水艦基地周辺海域の監視・情報収集、それに海上自衛隊哨戒機によるパトロールである。

 なんと言っても海上自衛隊は、アメリカ海軍に次いで多数の(それも世界水準から見るとずば抜けて多数の)P-3C海洋哨戒機を運用している。それだけではなく、アメリカ海軍の「P-3」よりも高性能な対潜装置が海自P-3Cには搭載されており、対潜能力だけを比較すれば海上自衛隊の方がアメリカ海軍に優っていることはアメリカ海軍自身も認めるところである。さらに海自P-3Cは国産の新鋭「P-1」哨戒機との交代が進められ、日本の対潜哨戒能力はより一層強化されていく。