5月7日、大西洋、リオデジャネイロ沖の海底で、かつて陸地だったと考えられる岩石が見つかったことを、潜水調査船「しんかい6500」で調査中の海洋研究開発機構(JAMSTEC)とブラジル政府が発表した。

 かつて大西洋にあった「失われた大陸」と言えば「アトランティス」。そして、その海底遺跡を潜水艇から眺めるとなると、子供の頃、心躍らせながら読んだジュール・ヴェルヌの冒険小説の古典「海底二万哩」のネモ船長の姿が思い浮かぶ。

アトランティスを初めて記したプラトン

 そんなアトランティスの物語を初めて記述したのは、紀元前4世紀、晩年にさしかかっていた西洋哲学の祖プラトンだった。

 その書、「ティマイオス」と「クリティアス」には、すべてが満たされた夢の楽園アトランティスは、「ヘラクレスの柱」と呼ばれた今のジブラルタル海峡を越えた西側にあったと記されている。

 広大な長方形の平原を山々が取り囲み、豊かな自然に恵まれたその都には同心円状に運河が設けられ、どこからでも海に出られた。

 そして、自然との調和を実現し平和に暮らしていたのだが、いつしか欲望にまみれ領土を広げていくうち、アテネとの戦いで大敗を喫してしまう。それから間もなく、海にのみ込まれ消滅してしまったというのである。

 その後、長く忘れられていたアトランティスの物語は、「新大陸発見」を機に、再び顧みられることになる。「新大陸」の遺跡こそがアトランティスと考えるコンキスタドールも少なくなかったのである。

 19世紀に入り、ヴェルヌの「海底二万哩」によりアトランティスは広く注目を集めるようになる。そんななか、元ミネソタ州副知事イグナシアス・ドネリーが著した「大洪水前の世界アトランティス」なる書がベストセラーとなる。

 「アトランティス学の父」とさえ呼ばれるようになるドネリーがその説を唱えるようになったのも、ハインリッヒ・シュリーマンがトロイ遺跡の発掘に成功し、ただの伝説に過ぎないと思われていたホメロスの叙事詩の記述が事実であることが証明されたからだった。

 プラトンの書などを深く分析したうえで、アトランティスは大西洋にある高度な文明を持つ帝国だったという自説を展開する意を強めたのである。