マット安川 今回のゲストは、初登場の軍事アナリスト・小川和久さん。ご自身も折に触れて関わられた、日本の外交政策や諸外国との関係について、細かくお聞きしました。官僚制度への見解や、米軍基地・対米交渉のリアルなお話は必見です。

「引っ越しできない」隣国との正しい付き合い方とは?

「マット安川のずばり勝負」ゲスト:小川和久/前田せいめい撮影小川 和久(おがわ・かずひさ)氏
1945年熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立、現在は国際変動研究所理事長のほか、静岡県立大学特任教授。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。著書多数。(撮影:前田せいめい、以下同)

小川 日本人は外交、安全保障、危機管理といったことのセンスが、ほとんどDNAレベルで欠けていると思います。中国や韓国といった隣国との関係をめぐる議論も非常に幼稚です。

 両国とも海を隔てて国境を接している「引っ越しできない関係」だということを、まず念頭に置かないといけません。

 怖がるばかりではなく戦略的に、相手を利用しておいしい思いができるように関わっていく。向こうもそういうスタンスで付き合う中でWin-Winの関係になれば、摩擦は横に置いといてって話になりますよね。

 尖閣問題について言えば、中国の軍は一貫して抑制的です。日本との間に小競り合いでも起きれば国際的な資本が中国から退いてしまう恐れがあるからですが、それだけじゃありません。軍の上層部の財布は中国経済と直結しているんですね。だからとにかくトラブルは起こしたくない。

 習近平(国家主席)さんの幼馴染みで、軍事面の代表者とも言える劉源という上将がいます。対日、対米の最強硬派と言われた人ですけど、今年2月からにわかに違うことを言い出しました。

 日本との戦争は利益にならない、中国の発展は戦争と戦争の間に実現したんだとね。習近平の承認がないとこういう発言はできません。ちゃんと話し合った上で、日本とコトを構えるのはやめようなってことでしょう。

対中外交がうまくいかないのは、軍の仕組みを知らないから

 中国が尖閣で領海侵犯を繰り返しているのは、日本がやるべきことをやっていないからです。

 例えば南シナ海で中国ともめているベトナムは、去年の6月に海洋法を制定しました。外国政府の船、軍艦がベトナムの領海に入るときには、事前に政府の許可が必要だよっていうものです。

 中国はぎゃんぎゃん咆えたけど、それからは入っていません。法律を知りながら入って撃たれたら、入ったやつが悪いんだという話になる。当たり前の国がやるのはそういうことです。

 日本の外務省は中国をよく知っていても、軍のことは知りません。外交がうまくいかないのは、ひとつにはそのせいでしょう。

 今の日本の場合、外国の大使館にいる防衛駐在官は一等書記官か参事官ですから、大使から見れば下っ端です。しかし中国の場合、大使館にいる国防武官は大使と同格なんです。