橋下徹大阪市長は、もともとタレント弁護士でした。日本の政党で、タレント政治家というと、集票力は評価されつつも実際の権力はベテランが持っているのが普通です。

 テレビタレント出身で党首になった例としては、過去に保守党の扇千景氏がいますが、タレントをやめてから長期間議員をやった末でのことですから、扇氏をタレント議員と呼ぶのは不適切でしょう。新党を立ち上げ、党首となり、たった3年でここまで力をつけたタレント政治家は、橋下市長が日本初と言っていいのではないでしょうか。

有能な人を抜擢すると自分を倒しにくることがある

 そんな橋下市長に群がるのは、既存政治に満足できない人たちばかりではありません。

 <ある君主のよしあしを推測するには、まず最初に王の側近を見ればいい。>
(『君主論』、マキアヴェリ著、池田廉訳 中公文庫)

 

 マキァヴェッリは人の頭の出来を3種類にランク付けします。

「上」 自分の独力で考えを巡らせる。

「中」 他人に考えさせて、優劣を判断する。

「下」 自分の考えも働かず、他人にも考えさせない

 もちろん「上」がいちばん良いわけですが、「中」でも十分に立派な君主になれます。その例としてマキァヴェッリが挙げるのは連載の17回でも触れたパンドルフォ・ペトルッチです。パンドルフォ自体はたいして頭はよくなかったのですが、誰が有能かは見抜く力は持っていて、宰相に有能な人物を抜擢したことで立派な君主として認められました。

 しかし、有能な人を抜擢するということは、君主にとって外患を排除する力となりますが内憂を育てる危険もあります。有能な人が活躍し、評判が上がると、今度は君主を打倒しにかかってくることがあるからです。

 そのため、マキァヴェッリは側近には自分よりも君主のことを最優先して考える人を抜擢すべきだと言います。そうした人を抜擢したら忠誠心を持たせるため、普通ならあり得ない地位や名誉を与え、生活に困らないだけでなく、これ以上カネを欲しがらないくらい財産を与えよと言います。すなわち、自分の地位や名誉や財産は、君主に全面的に依存するようにしろということです。そうすれば、なるほど、裏切られることはほとんどないでしょう。