北朝鮮に拉致された日本人被害者の救出に向けて、安倍晋三政権が新たな努力を強める姿勢を見せ始めた。その努力の一環として古屋圭司・拉致問題担当大臣がワシントンを訪れ、5月2日に日本人拉致問題についての日本政府主催の初のシンポジウムを開く。
ちょうどそんな時期に、米国人青年が北朝鮮当局に拉致されたことが疑われる事件に米国で新たな視線が向けられた。同時に米国の民間人権団体がこの米人青年拉致疑惑をオバマ政権に対して公式に提起することにもなった。こうした動きは日本の長年の同胞救出にも「米国との共闘」という効果的な新アプローチをもたらす可能性を示している。
米国で大々的に報じられた米国人青年の拉致疑惑
米国大手紙の「ウォールストリート・ジャーナル」(4月26日付)は「北朝鮮の拉致者たちとデービッド・スネドン」と題する長文の寄稿論文を掲載した。筆者は同紙の海外特派員や論説委員として長年、アジア問題などを報じてきたメラニー・カークパトリック女史である。カークパトリック氏は特に北朝鮮政府の人権弾圧を取り上げてきた実績があり、『北朝鮮からの脱出:アジア地下鉄路の語られぬ物語』という近著もある。
同論文の題名にある「デービッド・スネドン」とは、2004年8月に中国の雲南省を旅行中に行方不明となり、北朝鮮工作員に拉致されてピョンヤンに拘束されたままだという可能性の高い、ユタ州出身の当時24歳だった米国人青年のことである。スネドン氏が北朝鮮に連行されたという情報については当コラムでも「日米共闘で拉致被害者を取り戻せ」(2012年5月16日)というタイトルで報告した。
しかし今回、ウォールストリート・ジャーナルという、米国メディアでも大手中の大手の新聞に大きく取り上げられたことの意義は重い。スネドン氏拉致疑惑がそもそも米国の主流メディアに正面から報じられたのは、この論文が初めてなのである。この展開は日本の拉致被害者救出の努力にも大きなプラスとなる潜在性を秘めている。なぜなら、北朝鮮当局による外国人拉致という非人道的な国家犯罪を、米国と日本が共同で追及できる道へのドアが開かれるかもしれないからだ。