4月18日、中国がようやく2012年版の「国防白書」を公表した。2年ごとに公表される中国の国防白書は今回で8回目となるが、公表が越年となったのは2008年の白書からで、「2008年中国の国防」が2009年1月、同じく「2010年中国の国防」が2011年3月であった。今回、中国は白書のタイトルを「国防白書:中国の武装力の多様な運用」と改め、この4月に公表に至った。
今回の国防白書の注目点は3つある。第1にタイトルの変更であり、第2に「情報公開」の進展であって、第3に核戦力運用についての表現の変化である。1998年に最初の国防白書を中国が発表して以来、タイトルの変更は初めてである。
変わったのはタイトルだけではなく、内容も従来のスタイルから大きく変わり、まさに「中国の武装力の多様な運用」を説明しようとするものとなっている。これまでの中国の軍事力を包括的に概観するものから、いわばトピックを抽出し、それに特化した内容と言える。これは、いわゆる常識的な「白書」の書き方とは違う。だから、今回の白書には、例えば国防費の用途の説明など一切ない。こうした形式が今後も続くとすれば、白書を通じて中国の国防態勢の変化を経年的にフォローすることは難しくなった感がある。
軍事力を紛争解決以外にも幅広く運用
中国は、タイトルを変えた理由を明らかにしていない。しかし、思い当たることとして、米国防総省の中国軍事力年次リポートが、オバマ政権の2010年になってからタイトルがこれまでの「中華人民共和国の軍事力」から「中華人民共和国に関わる軍事・安全保障動向」へと変更されたことが想起される。米国が、中国の軍事力の国際平和への貢献や国際軍事交流への目配りを加味し、従来の年次リポートよりも中国への配慮を加えたことが指摘されてきた。
今回の中国の国防白書も、国内の経済建設に対する人民解放軍の貢献に加え、ソマリア海賊への対応や国連平和維持活動への貢献、さらに各国との軍事交流の進展など、米国の年次報告のタイトル変更に呼応させたような内容となっている印象がある。
しかし、それだけではないだろう。国防白書のタイトルに謳われている「中国の武装力の多様な運用」が示すように、これは中国が軍事力を紛争解決の手段のみならず、外交・安全保障はおろか国内安定のためを含め、幅広く運用する用意があることを内外に示す意図が込められていると思われる。