今週のJBpressは何と言ってもこの記事(なぜ私は救急患者の受け入れを拒否したのか)が読まれた。財政破綻した北海道・夕張市で起きたある小さな事件を扱ったものである。

ボランティアで緊急医療ができるのか

 ある事件とは、夕張市内で首吊り自殺を図り心肺停止状態になった男性の救護を巡る一件だ。救急隊は夕張市立診療所(夕張医療センター)に搬送しようとしたものの、診療所の理事長である村上智彦医師が受け入れを拒否し、男性患者が死亡したというもの。

 この事件については地元の北海道新聞が「救急受け入れ また拒否~夕張市立診療所 心肺停止の男性」との見出しを立てて、村上医師を糾弾する記事を書いている。この記事を読む限り、誰もが人道的な立場から村上医師を責めたくなる。

 しかし、本当にそうなのか。JBpressの記事は、一方的に糾弾された村上医師の反論を掲載したものである。

 夕張市立診療所は予算がないために常勤医は村上医師1人しかいないばかりか救急指定病院にも指定されておらず、毎晩徹夜が続くような激務を続けている。そうした中でも、村上医師は何度も救急患者を受け入れてきた。完全なボランティア活動だった。

 しかし、自殺して既に心肺停止しほとんど助かる見込みのなかった男性の受け入れができないと断ると、マスコミばかりか夕張市長からも厳しい弾劾の言葉を浴びせられた。

 これに対して、村上医師は、そもそも救急医療のあり方に問題があるのではないかと反論する。救急医療は自治体の責任であり、ボランティアの医師に任せるべき問題ではない。財政破綻したとはいえ、本来なら夕張市が予算をやりくりして体制を整えるべきものである。

 それを人道的立場という非常に聞こえの良い言葉によって、問題のすり替えを行って責任逃れをしようとしたのは、市側であったはずだ。マスコミも正義感をかき立てられたのだろう。村上医師に裏を取ることもなく、医師を糾弾する記事を書いたようだ。

 今の日本に必要なのは小さな正義感を振りかざすことではない。日本はどうあるべきなのか、日本の何が問題で、どのように解決していかなければならないのか。現場の記者であってもそうした意識をしっかり持って取材し執筆しなければならない。日本のメディアの現状と未来に強い危機感を抱かされる事件であった。