3月1日、オバマ大統領は予算管理法(Budget Control Act)によって規定されていた「sequestration」条項の発動に追い込まれた。

 この「sequestration」という用語は、多くのアメリカ国民にとってもなじみの薄い言葉であり、もちろん日本ではさらに聞きなれない言葉である。英和辞典にはこの単語の訳語として「隔離、流罪、隠遁、(法)係争物第三者保管、財産仮差し押さえ、接収、(医)腐骨化、(化)金属イオン封鎖」といった訳語が列挙されているが、今回発動された「sequestration」には、「強制歳出削減」あるいは「自動歳出削減」といった訳語が与えられている(本稿では「強制削減」と呼称する)。

 強制削減は、アメリカにおいて史上初めて実施されることになった。そのため、その本当の影響はなかなか理解しにくいと言われている。

 アメリカでは、今回の強制削減の発動は金融・経済界ではすでに織り込み済みであり、アメリカや世界の株式市場や経済動向に対する影響はそれほど深刻なものではないといった見方がなされている。しかし、最大の削減対象となる国防関係は極めて甚大な影響を受けることになり、アメリカ軍事戦略そのものの修正を余儀なくされかねない状況に直面している。

強制削減されるアメリカ国防費

 国防費に対する強制削減は、国防省ならびに各軍をはじめとする国防関連予算全体に対しての削減措置である。その削減総額は2013年度国防予算に対してはおよそ850億ドル(=およそ8兆750億円)、強制削減措置が続く2020年度までの10年間でおよそ1兆2000億ドル(=およそ114兆円)という巨額に達する。

 ちなみに、このアメリカ国防費の削減額がいかに巨大なものかというと、安倍政権になって1000億円ほど増額された2013年度の日本の国防予算がおよそ4兆7000億円であるから、2013年度の国防費強制削減額だけでも日本の国防費のおよそ2倍、10年間の国防費強制削減額は日本の国防予算のおよそ24年分強に相当する。まさに巨額である。

 強制削減からは、現役将兵の給与と戦費(現在進行中の軍事作戦に直接関連する費用)は特別的な例外とされる。それ以外の大部分の国防費項目(現役軍人以外の国防省・軍・軍関連施設のシビリアン要員の給与ならびに各種人件費、装備調達費、研究開発費、基地・施設建設維持費、住宅設備費など)は“一律カット”されることになる。

 現役軍人の給与はカットしないため、人件費総額を9%カットするためには現役軍人以外の国防省・軍関係者の給与を削減して帳尻を合わせる必要がある。そのため、国防省関係のシビリアン要員には22週間にわたって毎週1日ずつ強制休暇(もちろん無給)が与えられる。