財務省が消費税をどうしても上げたいわけは、増え続ける社会保障費にあることは誰の目にも明らかである。しかし、この増え続ける社会保障費、なかでも医療費は本当に必要なものなのか。そのことに疑問を投げかける1人の医師がいる。大阪大学の石蔵文信准教授である。
「患者をじっくり診るなら辞めてくれ!」
石蔵さんは自らの哲学で一人ひとりの患者をじっくり時間をかけて診る治療を続けてきたが、いままでに「それでは病院の経営が成り立たない。辞めてくれ」と、5つの医療機関から離縁状を渡された経歴を持つ。
「日本の医療界は自らの常識の罠に完全にはまってしまっているんですよ」
「なぜ改革をしたくないのか、その理由はさっぱり分からないが、愚かなことに医者はますます忙しくなるのに、所得は増えるどころかどんどん貧乏になる悪魔のサイクルを是として受け入れている」
日本の国民皆保険制度は世界的に見れば非常に優れている。しかし、どんなに優れた制度やあるいは組織であっても、長年同じことを続けていると内部に膿がたまってくる。
ときどき膿を出してやらないと、大きなおできとなって簡単には治らなくなってしまう。いまの日本の医療現場がまさにそのような状況だと石蔵さんは言うのである。
「日本では1日にできるだけ多くの患者を診て、検査をいっぱいやる、患者の話はできるだけ聞かず薬をいっぱい出すことが良い医者の条件なんです」
保険診療の点数引き下げが常態化している日本では、いままでと同じ売り上げを保つためには医者により多くの患者を診てもらう必要がある。そして検査を増やして点数も上げようとする。必然的に患者にじっくり話を聞く時間が取れなくなる。
少子高齢化が進む日本では、お年寄りが診療を受ける機会が増えて国の医療費負担が増え続ける。そうなると必然的に点数引き下げ圧力が高まるので、システムが破綻するまでこのサイクルが永遠に続くことになりやすい。
日本人という世界きっての真面目な民族性もそれに一役買う。システムがおかしくなっているのに、とにかく耐え、それがまるで美徳のごとく耐え続けてしまう。その結果、気づいたら疲れ果てぼろぼろになっている。