沖縄県尖閣諸島の領有権を巡る日中の対立は、日本側の冷静さと比べ中国側の好戦的傾向が際立つ。特にメディアに登場する人民解放軍の論客は、こぞって「日本何するものぞ」という姿勢で主戦論を展開している。

 ここでは個別の発言を取り上げるつもりはないが、彼らは一体、誰(あるいはどの組織)の意向を代表して発言しているのか。個人の意向の表明なら、それを許容しているのは誰(あるいはどの組織)なのか。

 いずれにせよ詮索の域を出ない作業にならざるをえないだろうが、これらの好戦的発言に世論が刺激されるとすれば、場合によっては現在の中国の政策決定にも影響しかねない。

中国の軍人は日本より「言論の自由」がある?

 尖閣問題で強硬な論陣を張っている軍人は、羅援(中国軍事科学学会副秘書長、少将)、彭光謙(中国政策科学研究会国家安全政策委員会副秘書長、少将)、徐光裕(中国軍備管理軍縮協会理事、少将)、楊毅(東北アジア開発研究員常務副院長、少将)等の名が挙げられる。ただし、彼らの肩書から察せられるように、現役ではなく退役少将である。退役とはいえ、彼らの所属はいずれも人民解放軍直系のシンクタンクであり、その発言が人民解放軍の意思と全く関係がないと考えるのは難しい。

 では、彼らは現役の軍人ではないから好戦的強硬論を展開し、そうした発言が許容されているのだろうか。そんなことはないはずだ。例えば朱成虎(国防大学教授、少将)はれっきとした現役であるが、2005年7月に、「米国が台湾海峡での武力紛争に介入し中国を攻撃した場合、中国は対米核攻撃に踏み切る用意がある」と発言し、米国を牽制したことがある。同じ現役組でもっと「大物」に、劉亜洲(国防大学政治委員、空軍上将)がおり、反日で知られた軍の論客だ。羅援の場合は、いまだに軍服姿でテレビに出ており、とても退役少将には見えない。人民解放軍の場合、現役と退役の差が歴然としておらず、実に曖昧と言わざるをえない。

 ひるがえって現在の日本では、少なくとも現職の自衛官が中国に対する主戦論を主張することなどあり得ない。そのような言動をすれば、すぐさまメディアによって「シビリアンコントロールに反する行為だ」として批判は免れない。自衛隊OBでも、頻繁にメディアで派手な対中非難や武力行使を是とする論陣を張る者は見当たらない。

 自衛官も軍人として捉えれば、日本より中国の方が「言論の自由」があるかのように見えるのは大いなる皮肉であろう。なぜこのような現象が出てきているのか。中国のシビリアンコントロールはちゃんと機能しているのか。このような疑問は出てきて当然であろう。

 他方、尖閣海域においては、あいかわらず中国の公船による日本領海への接近や侵犯、さらには中国国家海峡局所属の航空機による領空侵犯も起きている。中国外務省のスポークスマンによれば、これは正常な活動であるとしており、日本の対応、とりわけ航空自衛隊によるスクランブルを「正常な巡視飛行の妨害だ」と非難する始末だ。