民主党政権下で、対米関係も、対中、対韓関係も深刻な事態に陥ってしまった。それだけに安倍政権にとってデフレからの脱却とともに、外交の立て直しも急務になっていた。そのうえ北朝鮮が、またもや核実験と長距離ミサイルの打ち上げを強行しようとし、中国も日本への軍事的な挑発を強めている。官邸や防衛省は、気の抜けない緊張状態が続いていることであろう。

エスカレートする中国軍の挑発行動

 中でも中国の軍事挑発は、度外れたものになっている。1月14日付の中国軍機関紙「解放軍報」は、「戦争の準備をせよ」という軍総参謀部の指示を掲載した。

 朝日新聞(2月4日付)の報道によれば、この記事について中国軍関係者は、「『全軍が臨戦態勢に入ったことを意味する』と説明」したという。同紙によると2月2日付の「中国青年報」(中国共産党の指導下にある中国共産主義青年団の機関紙)でも、北海艦隊が西太平洋ですべて実弾を使った演習を行ったことや、これが「実戦に備えた異例の訓練」だという艦隊幹部の発言を掲載しているという。

 この相手が、日本であることは言うまでもない。

 2月5日には、1月19日と30日の2度にわたって中国海軍フリゲート艦が海上自衛隊のヘリコプターや護衛艦に対し、火器管制レーダー(射撃用レーダー)を照射していたことが小野寺五典防衛大臣から公表された。

 火器管制レーダーは、艦砲やミサイルを発射する際、攻撃目標の位置や速度を正確に把握し、照準を合わせるために使用される。まさに武器使用直前の行動である。平時には絶対に使われない敵対行動であり、「禁じ手」なのである。

 おそらく尖閣への中国の確固たる姿勢を示すために取られた挑発行動であろうが、一触即発の危険性を高めるだけの危険極まりない行為と言わなければならない。アメリカが、緊張悪化への懸念をただちに表明したが、当然のことである。

国際世論を味方につけようとする安倍戦略

 報道によれば、小野寺防衛相から報告を受けた安倍晋三首相は、「国際社会にこういう事実があるということを知らしめる必要がある」として、速やかに公表するよう指示したという。極めて的確で冷静な判断であったと思う。

 尖閣問題でもそうだが、「領土問題は存在しない」と言うだけで、日本は尖閣が日本の領土であることを国際社会に発信してこなかった。山本一太沖縄・北方相は、「尖閣諸島について事実と違う発信がある。しっかりものを言っていかなければならない」と述べ、日本の立場を積極的に国際社会に発信していく姿勢を示している。これまでの日本外交に欠けてきたことであり、大いに期待したい。