MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
原徹文書では、4項目の反対理由が挙げられている。(この記事は「大丈夫か安房医師会(1)の続きです。前の記事を読むにはこちらをどうぞ=編集部注)
原徹文書の反対理由・その1
反対理由1は「無償ないし低額での保険医療提供は患者誘導、集患行為に当たる」という文言に示されている。自分の収入が減る可能性があると根拠なしに自分が感じていることを理由に、医療にアクセスできない生計困難者を助けようとする合法的な活動に反対し、安房医師会の名称、あるいは、千葉県医師会副会長の立場を利用して県庁に圧力をかけたと理解される。
前置き部分で「懸念をお伝えした」とあいまいに表現されているが、実質的にどう受け取られるかが問題なのである。
「生活に困窮されている方は少なくない」という認識については、我々と共通している。それにもかかわらず、反対しているのである。
暴力や政治的圧力を背景に正当な業務に対して正当な根拠なしに文句を言うことを、関西言葉で「いちゃもんをつける」という。yahoo辞書では例文として、「暴力団員は彼にいちゃもんをつけた」とあった。「因縁をつける」も同義である。
療養担当規則の2条の4の2は「保険医療機関は、患者に対して、第5条の規定により受領する費用の額に応じて当該保険医療機関が行う収益業務に係る物品の対価の額の値引きをすることその他の健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益の提供により、当該患者が自己の保険医療機関において診療を受けるように誘引してはならない」として割引診療を禁止している。
割引が禁止されているため、生活保護受給一歩手前の患者が医療にアクセスしにくくなっている。これを救済するために、無料低額診療がある。
歴史の流れの中で、あらゆるものが変化していく。1つの業種の収入が永遠に保障されることなどあり得ない。駕籠屋も炭鉱労働者も日本にはいなくなった。医療をめぐる状況は大きく変化しつつある。
医療提供者は、社会の要請を受けて、自らを変革し続ける必要がある。亀田総合病院も社会の要請に応える努力を怠れば衰退し消滅する。
治療が医療の主役になったのは、ペニシリンの発見によって病気が治せるものになって以後である。最近半世紀の間に、治療手段が急速に発達し、病院が大規模化した。社会の高齢化に伴い、加齢現象にまで病気の概念が広がった。
しかし、加齢に伴う身体の衰えは治癒せず、しばしば、介護を必要とする。高齢者に対する胃ろうや経管栄養の普及は、日本人の寿命が限界に近いことを示している。高齢化に対して、治療を主たる業務とする病院だけでは対応できなくなった。
国民皆保険が始まった1961年当時と比べて、外来での投薬の役割が相対的に小さくなった。一方で、在宅診療の役割が大きくなっている。
医師会は、既得権益を維持するために、しばしば社会の要請に応える努力を抑圧してきた。間宮会長、原副会長は、社会が必要としている活動の邪魔をせずに、自分たちでも努力してみてはどうか。