10月12日、ノルウェーの首都オスロのノーベル賞委員会は、欧州連合(EU)へのノーベル平和賞授賞を発表した。

 60年以上にわたり、欧州の平和、和解、民主主義の向上に貢献してきたことを評価してのことだというが、緊縮財政を強いられるなか苦しい社会情勢が続き、抗議デモが繰り返されているギリシャ、スペイン、ポルトガルあたりからは、「ノーベル賞で飯が食えるのか」などといった声が聞こえてくる。

EUの受賞に戸惑うノルウェー

ギリシャ テッサロニキ 北へ向かえばマケドニア、コソボ

 もちろん、肯定的な意見も多いのだが、実のところ、最も戸惑っているのは、ノルウェー国民なのではないだろうか。と言うのも、ノルウェーは「先進」欧州諸国のなかでも数少ないEU未加盟国。

 それも、スイスやリヒテンシュタインなどの永世中立や小国といったある意味分かりやすい未加盟と違って、国民投票により加盟が否決されてきた歴史があり、多くの国民がEUなど入らなくともうまくやっていける、との思いを持っているはずだからである。

 そうした思いには、それなりの裏付けがあり、もちろん、EU未加盟でも欧州経済領域(EEA)でEUの単一市場に参加できるという現実もあるのだが、何と言っても豊富な石油天然ガスを埋蔵する北海油田という経済的後ろ盾となる存在が大きい。

 この油田、デンマーク、ドイツ、オランダの経済水域にも及ぶ広範なものなのだが、英国領、ノルウェー領あたりに埋蔵が集中している。

 そのあたりは、ノルウェー南西部の石油産業で潤う港町スタヴァンゲルから英国の北海油田へと話が展開していく活劇『北海ハイジャック』(1980)のプロットにも表れている。

 いまや英国の鉱区では枯渇が進んでいると言うが、一方のノルウェー領では、昨年新たなる油田が発見された。そして、将来の枯渇に備え、得た収益を政府年金基金が資産運用する手堅さも見せている。

 ノルウェーと言ってまず思い浮かぶのが長く続くフィヨルドではないだろうか。それは天然の良港に恵まれていることも意味するから、当然漁業も盛ん。そして、長い間生活に密着してきた捕鯨の伝統もある。

 捕鯨と言えば、隣国デンマークのフェロー諸島やグリーンランドもよく知られているが、その点でEUと対立していることも影響しているのか、そのどこもが、EUに加盟していない。