最近、新旧のポルシェを乗り較べる機会に恵まれた。

 ともに「911」という伝統の車名を受け継ぐが、新しい方は、2011年にモデルチェンジしたばかりの、ポルシェ社のタイプナンバーとしては「991型」のカレラS、古い方は20年前の「964型」のカレラ2という2台である。

最新の「911」、タイプナンバー「991型」系列のモデル群。新旧比較に連れ出したのはエンジンの排気量が少し大きいカレラSのPDK(デュアルクラッチ・トランスミッション)仕様だった。間違いなく「速く」「高性能」かつ「ブランドを表現」した現代の高価格車らしくはあるが・・・。(写真提供:Porsche)

 この964型に至る時代、ということは1980年代後半、私と福野令一郎さんは「最良のポルシェは、最新のポルシェである」と実感し、そう書いた。このフレーズをいまだに使い回している記事を見かけて苦笑することもままあるのだが・・・。残念ながらそれはもう通用しない。今回の新旧比較の中で改めてその思いを強くしたのだった。私自身の脳と筋肉に刻まれた動質の記憶と評価が、美化されたり、変形していないことが確認できたのも収穫だった。

 かつてポルシェが送り出すクルマたち、特に911系列は1つのモデルを長い間作り続ける中で、毎年大小のリファインが加えられていった。いわゆる「イヤーモデル」(年次改良)の度に「あ、やっぱりここは気になっていたのだな」という小改良に始まり、「こんな資質の向上ができるのか」という身体に伝わるスポーツカーとしての動質のレベルアップまで、様々な変化が体感できたものである。

 前にも書いたように、今も欧米の自動車メーカーの一部は、そうした「着実な進化」をその製品に織り込むことを続けている。何かを作り、世に送り出す側においては、どこかで内容を確定して「製品」にしなくてはいけない。しかしその段階で「もう少しこうできれば・・・」ということが残っていたり、新しい技術や考え方が加わることも少なくない。それを刻々と製品に反映して「熟成」してゆく、という行き方はある意味では真摯にものづくりに取り組んだ時には必然的にそうなるものではある。

 日本の自動車メーカーは、以前はモデルライフの中間で行う「マイナーチェンジ」のときにこの種の改良と不具合対策をまとめて取り込む、というやり方をしていたのだが、昨今ではただ「化粧直し」程度に止まることが多い。

 しかしポルシェのような高価なクルマを買う立場になると、できるだけ良いものが欲しいと思うのが当然であって、もちろんそう簡単に買い換えるものではない(富裕層では必ずしもそうではないこともあるけれど)。同じモデルであっても毎年何かしら良くなり、進化するというのでは、どのタイミングで買うのがいいのか、イヤーモデルごとに、そして異なる仕様まで味見ができる立場の我々としてはリコメンド(推奨)するのに悩む、という思いが「最良のポルシェは・・・」というフレーズに凝縮されていたのである。

個々の反応のつながりが甘い最新の911

 あれから20年以上が過ぎ、911も大きな技術転換も含めて4回の世代交代が行われている。その「最新」を操ると、確かに「出力が大きく」、その全能力を解き放つ状況に恵まれれば「速い」ことは誰しも分かる。最新の幅広・超偏平タイヤの摩擦力に支えられて、旋回の限界も思い切り高い。しかし、そこに「自分自身がクルマを操っている」という高揚感はない。