HIRO TAKAHASHIの店はガラス張りで厨房まで見通せるのが特徴。客や通りすがりの人にパンやケーキをづくりの様子を見てもらう(筆者撮影)

 スイス最大の都市であるチューリヒの中央駅から電車で10分。郊外の住宅地の駅前にあるパン屋で、ちょっと懐かしい黒ゴマの乗ったあんパンや、さっくりとしたビスケット地のメロンパンがヒットしている。

 店を切り盛りするのは日本人パティシエ・高橋裕則。白地に黒で「HIRO TAKAHASHI」の名を記したシンプルな看板とは好対照に、店の中は宝石箱のようにキラキラとしたカットケーキや、こんがりと焼き上がった食パン、何種類もの菓子パンで、お伽噺の世界のような楽しさが溢れている。(本文敬称略)

本場ヨーロッパで、日本風にこだわる

本場欧州で、日本風のパン・ケーキづくりに取り組む。スイスに渡って12年、まもなく36歳を迎える(写真提供:Confiserie Bäckerei HIRO TAKAHASHI)

 「HIRO TAKAHASHI」がオープンしたのは2010年1月6日。本場ヨーロッパには、毎年多くの日本人がケーキやチョコレートづくり、パン技術を学ぶためにやって来る。そのまま欧州に腰を据えて、自分の店を構える人もいるが、「HIRO TAKAHASHI」のように、日本風のパン・ケーキづくりにこだわった店は珍しい。

 開店して5カ月。「HIRO TAKAHASHI」の評判はチューリヒに留まらず、スイス全土に広がっているようだ。新しい物好きの人や、日本を訪れたことのあるスイス人が足繁く通ってくる。週末になると、スイス西部のジュネーブやローザンヌからわざわざ3時間かけてやって来る人もいて、あんパンやメロンパン、クリームパン、カレーパンなど人気の菓子パンは予約しておかないと売り切れてしまうこともある。

日本でお馴染みのパンが並ぶ。あんパン、メロンパン、クリームパン、カレーパ ンはスイス人にも人気。あんパンは「赤い豆」が入っていると説明、物珍しさから購入して、リピーターになる人も多い(筆者撮影)

 菓子パンの価格は3スイスフラン前後と、日本円で200~250円程度。スイスのパンと変わらない価格設定も人気の秘訣のようだ。

 5月にはチューリヒ近郊で開かれた今年で10回目の日本の漫画のイベントから600個のパンの注文を受けたが、開店と同時に行列ができてあっという間に完売した。オーダーメイドのケーキの注文も途切れることがない。

 腕のいい職人が優れた教師とは限らないが、高橋はこの点でも秀でている。毎月1回開催しているパン教室は、「教え方が上手!」と在スイスの日本人女性から評判が高く、最近では、地元のスイス人も参加するようになっている。6月に、初めて子どもを対象にしたパン教室を開くが、10人の定員はすぐにいっぱいになり、申し込みを断っている状態だそうだ。