ロサンゼルスは歩けない街だ。

 僕の好きな街、ニューヨーク、東京、ソウル、ローマ、パリ・・・、は外にふらっと出て、気の赴くままにぶらぶらと歩いているだけで楽しかったりする。

 歩きながら、カラフルな街の情景を楽しみ、すれ違う人たちの日常のドラマを想像することで、たくさんの気づきがもたらされる。

 何か考えごとがある時や、リラックスしたいなと感じた時、僕はもっぱら歩く。

 ある夜、新大久保のコリアタウンで飲んだ後、なぜだかそんな気分になって隅田川を越え荒川を越え、江戸川も越えて、千葉の市川まで歩いたこともあった。朝日が昇ってからもしばらく歩くことになったが、筋肉の疲労は別にして、とても清々しい気分で頭は冴えわたるようだった。

 ニューヨークのマンハッタンを歩くのは特に好きだ。

 ハーレムからアッパーウェストサイド、ミッドタウンを通ってチェルシー、ミート・パッキング・ディストリクト、ヴィレッジ、ソーホー、トライベッカ、ファイナンシャル・ディストリクトまで。

 歩いていると街の風景や、人々のスタイルやタイプもどんどん変わっていくので面白い。「ニューヨークの地下鉄の車両の中を見渡せば世界が見渡せる」と言った俳優の先輩は誰だったっけ。

ロサンゼルスを本拠地とするメジャーリーグのチーム、ドジャースを応援に@ドジャースタジアム(筆者撮影、以下同)

 そして我がアメリカンドリームの約束の地、ロサンゼルス・・・。ここでは人は歩かない。

 どこに行くのにも距離がありすぎるのはもちろん、そもそも歩行者のためにつくられている街ではないのだ。立ち寄って水でも買って飲もうかというキヨスクや、公衆トイレなどは全くと言っていいほど、ない。

 一度、観光客で賑わうハリウッドのチャイニーズシアターを訪れた時、じゃあ帰りはバス停1つ分だけ散歩してみるかと歩いてみたら、大間違いだった。次のバス停が歩いても歩いても現れない。

 その時は軽い気持ちで何の準備もしていなかったのでペットボトルの水さえ持っていなくて、あやうく周りに何もない道端で脱水症状と熱射病でバタンと倒れるところだった(だから皆さん、ロサンゼルスでは必ず飲み水は携帯してくださいね)。

 スーパーマーケットに行くにも、レストランで食事をするにも、バーで一杯やる時も、もちろん友達に会いに行くにも、必ず車が必要だ。