野田政権は大飯原発運転再開を決定したが、原子力発電並びに原子力発電所の安全対策が十分になされているとは言えない状況での運転再開であることは、再開反対派はもちろんのこと、留保付再開容認派並びに再開推進派のいずれもが共通に認識しているところである。

 原発の安全対策というと、「どのようにして原子力発電の事故を起こさないようにするか」あるいは「いかにして大規模な地震や津波あるいは洪水や土石流といった自然災害から原子力発電所を守るのか」といった人為的ミスによる事故や技術的欠陥、そして天災により原子力発電所が被災して起きる各種事故を防止する、いわゆる防災対策に主たる関心が向けられている。しかし、原発の安全対策に関する軍事的議論は極めて低調である。

 原子力発電そのものを軍事的に考えると、原子力発電が停止した場合に火力発電に頼らなければならない状況が続く間は、石油と天然ガスの安定供給確保のために、原油並びに液化天然ガスを日本にもたらす各種タンカーの航路帯すなわちシーレーンの防衛が筆頭課題として浮上する。

 ただし、この課題は国家安全保障の基本政策の範疇に属するため本稿では触れず、本稿では「どのようにして敵の軍事攻撃から原子力発電所(以下、原発)を守るのか」に関連した課題に限定して考察する。

特殊部隊やテロリスト部隊による原発攻撃

 「どのようにして敵の軍事攻撃から原発を守るのか」に関する対策が、日本で全くなされていないわけではない。「敵の特殊部隊やテロリスト部隊による原発襲撃」という事態に第一義的に警察が対処する態勢になっており、そのための原子力関連施設警戒隊も設置されている。

 しかしながら、万一特殊訓練を積んだテロリスト部隊や後方撹乱作戦のために投入された特殊部隊によって原発襲撃作戦が実施された場合には、軍隊に比べて貧弱な戦力しか保有していない警察機関ではとても対抗し得るものではない。

 このような状況であるにもかかわらず、警察よりは格段に強力な戦闘能力を持っている自衛隊に原発防衛を担当させる構想がなかなか現実化しないのは、現政権のみならず歴代政権の怠慢と言わざるを得ない。