前回は、今年のF1モナコ・グランプリ(GP)のレース展開と、それをどう「読み解くか」を紹介した。

 そのモナコGPがフィニッシュしてからほぼ3時間後にスタート、こちらは予選順位順(この決め方もまた独特なのだが)に整列した状態で比較的ゆっくりと走り、そこから加速してスタートラインを横切る「ローリングスタート」、それも伝統の3車横1列のフォーメーションから33台の闘いが始まった「インディアナポリス500マイル」(通称「インディ500」)の方は、というと・・・。

インディアナポリス・モータースピードウェイのメインストレート。写真奥が第4ターンであり、そこを立ち上がって長い直線を駆け抜けた佐藤琢磨のマシン(白地にブルー)が今まさに第1ターンへの旋回に入ってゆく。200周目の同じ場所ではフランキッティが外側から「ドアを閉めて」きつつあり、もっと内側ぎりぎりから向き変えの運動を始めざるをえなかった。旋回挙動の始まりがきつくなるのでスピンモードに陥りやすい。その「罠」に陥った形である。それにしても、コースの外周全体、さらには内側まで観客席はびっしりと埋まっている。インディ体験者の言葉によれば「スタンドが揺れるような大歓声が、マシンとともにコースを回ってゆく」という。(写真提供:本田技研工業)
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 2.5マイル(約4キロメートル)のオーバル(長円形。インディアナポリス・モータースピードウェイのコースは長短2本ずつの直線をカーブでつないだ角丸長方形に近い)コースを200周。1周の平均速度は予選アタックで時速365キロメートル、レース中でも時速340~350キロメートルという、世界のサーキットレースの中でも「最速」のイベント。

 予選最速だったシューマッハーの1周の平均速度が時速168.8キロメートル、最高速でも時速215キロメートルというモナコGPとは、すべてが対象的なイベントである。

 ただしそう見えるのは、舞台と競技文化の違いだけであって、モータースポーツとしての闘い方を考え、実行し、読み解く、という面では何も変わらず、それぞれに特有の難しさ、面白さがびっしりと詰まっている。

一新されたインディカーの車体とエンジン

 今年のインディカーシリーズは、マシン(車体)とエンジンの両方が一新された。タイヤが露出したフォーミュラマシンで、そのタイヤ同士がぶつかると危ない。接触だけでも壊れて走行不能になりやすい。

 そこでインディカーシリーズ統括団体であるIRL(Indy Racing League)は「クラッシュに強く」、安全なマシンを生み出し、同時に独自性が高く発展性もあるデザイン、マシン修復などのコスト抑制などをテーマに掲げて複数のコンストラクターに次世代車両の提案を求めた。その中から様々なマシンを手がけているイタリアのダラーラのものが選ばれた。

 各チームが独自に車両を開発・製造することを求めているF1とは違って、インディカーは参加全チームが同じ車体を使う。いわゆる「ワンメイクシャシー」なのである。そして現実に出来上がったマシンは、タイヤ接触・乗り上げ事故を防ぐ後輪前後の「プロテクター」が特徴的なスタイリングを形づくる一方で、その内側の骨格や機構は「量産車」らしく堅実な造りになっている。

 このシャシー(車体)に搭載されるエンジンも、昨シーズンまでの自然吸気・排気量3.4リットルのV型8気筒から、ターボ過給(排気でタービンを回し、空気を圧縮してエンジンに送りこむ)・排気量2.2リットルのV型6気筒、回転速度の上限を毎分1万2000回転として、燃料もメタノール100%からガソリン15%・エタノール85%の「E85」へ。

 そしてホンダ(開発はアメリカの拠点、Honda Performance Development)、シボレー(開発は競技エンジン専門企業のイルモア)、ロータス(開発は同様にエンジン・デベロップメント社に外注)の3メーカーが参戦を決めた。

 ちなみにF1の現行エンジン規定は自然吸気(吸入前に空気を加圧しない)排気量2.4リットルのV型8気筒であり、回転速度の上限は毎分1万8000回転で、燃料はガソリン。出力のピーク値としては700馬力以上というところか。インディカーの新エンジンはターボ過給の吸気圧力の設定にもよるが、やはり700馬力ぐらいは出ているだろう。