おいしさの決め手は「小豆、水、技」

「あんこ」の歩んできた道(後篇)

2012.03.30(Fri) 漆原 次郎
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 日本の「あんこ」が歩んできた道を前後篇で伝えている。前篇では、塩味の肉として始まり、甘味のある小豆(あずき)という今の形に変わっていったあんこの足跡を追った。

 あんこの歴史の先端で、今、あんこづくりをしているのが製餡所だ。静岡県三島市にある1930(昭和5)年創業の甲石製餡所は「おいしいあんこは3つの恵みから」として、「小豆」「水」「技」を挙げる。

 なぜ、この3要素があんこづくりに重要なのか。専務取締役の甲石正啓氏に、それぞれの“恵み”に対するこだわりを聞いた。そこには「美味いあんこを作る」ための科学的知見との一致も見られる。日本のあんこが“日本の味”である理由が見えてくる。

 静岡県三島市であんこづくりを行う甲石製餡所。専務取締役の甲石正啓氏は、袋に入った小豆を机に置いた。

 「日本での有名な小豆どころは北海道の十勝地方。良いとされる小豆は粒径や色目が均一でしっかり選別されています」

粒径や色味が揃った十勝産の小豆(画像提供:甲石製餡所)

 あんこの主原料は小豆。よって小豆は大切な要素。これは当然の話にも思える。だが、小豆の扱い方には奥深さがある。甲石氏は「地域やお客さまごとにあんこの味わい方は異なる。だから、小豆と“相談”しながらあんこづくりをしていくのです」と話す。

 乾いた小豆が、最終的にはぽってりとしたあんこの姿になる。この過程の中で重要なキーワードとなるのが「あん粒子」だ。

 小豆は、内側の子葉という部分を、外側の種皮が覆った形をしている。内側の子葉細胞を水に浸して加熱すると、細胞と細胞の結び目がほどけて、細胞単位でばらばらになっていく。この状態のつぶつぶを「あん粒子」という。あん粒子が作られる過程では、細胞膜に包まれていたでんぷんが糊のように粘り気を持つようになる。こうして、あんこのぽってりさが出てくるのだ。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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