ただし、中国の近代政治史において、この程度の戦いは日常茶飯事である。そもそも政治はパワーゲームであり、常に犠牲が伴うものだ。中国でこうした権力闘争が激化する背景には、権力闘争をルール化する仕組みが用意されていないことがある。

 振り返れば、かつて毛沢東が死去した後、鄧小平は革命第1世代の長老らの助力を得て権力を手にしたが、彼自身は党内の権力闘争を心配して「集団指導体制」の構築を指示した。だが、その集団指導体制の作り方が制度化されることはなかった。

 民主的な選挙が行われない不透明な集団指導体制は、結果的に共産党の指導力を弱体化させることにつながっている。

日本企業にとっての教訓とは

 今回の重慶事件は日本企業に重要な教訓を与えている。

 中国の現役の政治家の中で、日本で最も人気の高い者の1人が薄であった。薄は大連市長時代から日本重視の姿勢を示し、日本企業の対中投資の誘致に力を入れていた。実際に毎年、何回も来日し、日本の財界と親交が深い。

 日本企業が中国に進出する際、人脈やコネを過度に重視し、権力者に取り入ろうとする傾向がある。しかし、薄は権力闘争に負けてしまった。

 ビジネスを展開するときのキーポイントは、しっかりしたビジネスモデルの形成である。どんなに有力なコネクションがあっても、あやふやなビジネスモデルでは事業は成功しない。

 ビジネスでは沈着冷静にビジネスモデルを練ることが重要であり、有力者とのコネづくりに奔走するのは百害あって一利なしである。特に中国のような、法の統治が確立していない国においては、1人の有力者を頼りに投資を決断した場合、人脈とコネは時としてビジネスリスクに変わってしまう。

 ビジネスのことを優先して考えれば、人脈とコネはチャンスというよりも、むしろコストとリスクと見なした方がいいかもしれない。この点は、今回の重慶事件から見えた中国の政治リスクの一部分と言える。