薄熙来失脚説は本当なのか。2月3日に始まった重慶市公安局長失脚劇から3週間、薄熙来の辞意表明説まで流れるが、状況は今も混沌としている。5年に1度開かれる共産党大会前「恒例」の権力闘争に過ぎないのか。今回は王立軍失脚報道から浮かび上がる中国内政の様々なパターンを検証する。(文中敬称略)
王立軍失脚劇にまつわる疑問
今回内外メディアが報じた「権力闘争ストーリー」には少なくとも数通りのシナリオがあるが、いずれもにわかには信じ難い。ここでは中でも重要と思われる疑問点を幾つか取り上げ、筆者の独断と偏見で検証してみたい。
疑問1:薄熙来と王立軍とは対立していたのか
当初の噂では、今回王立軍が薄熙来を裏切ったという説と、逆に薄熙来が「トカゲの尻尾切り」で王立軍を見捨てたという説がまことしやかに流された。
しかし、王立軍は薄熙来が遼寧省から連れてきた腹心中の腹心、両者が少なくともつい最近まで一心同体であったことは疑いなかろう。
こう考えれば、今回は薄熙来と王立軍のいずれか一方が標的になったというより、両者が同時に党中央の何らかのキャンペーンの対象となった可能性の方が高い。
一部では薄熙来・王立軍と党政治局常務委員で中央規律検査委員会書記の賀国強との対立が報じられたが、当たらずとも遠からずではないか。
疑問2:王立軍はなぜ米総領事館に駆け込んだのか
党中央による「薄熙来追い落とし」の動きに対し、最初に危険を察して行動を起こしたのは「小物」である王立軍の方だった。2月6日、彼は自ら薄熙来のベンツを重慶から成都まで運転し、同日夜米国総領事館に駆け込んだと言われる。
王立軍が政治亡命を求めたかどうかも大きな疑問だ。
彼は総領事館内に丸一日いたというから、両者のやり取りが単純であったはずはない。しかし、なぜ今米国なのか。民主化運動家でも人権擁護派でもないただの公安警察高官を、習近平訪米直前の米国が受け入れると王立軍は本気で考えたのだろうか。
王立軍が薄熙来を含む中国要人の不正に関する膨大な資料を提出したとの噂も根強い。
しかし、その種の情報は中国国内でこそ機微であっても、米国にはそれほど魅力的ではないだろう。今回の米国総領事館駆け込みは王立軍が犯した政治的判断ミスの中でも最大級の失敗ではなかろうか。
ちなみに、ワシントンでは既にある下院議員が成都の総領事館、北京の大使館とワシントンの国務省の間で交わされた米公電をすべて公開するよう求めているそうだ。
公電の詳しい内容が外に出れば、この問題は決着がつかなくなる。国務省が情報公開要求に簡単に応ずるとは思えないのだが・・・。