「インバウンドビジネス」という言葉が定着するようになった。外国人旅行者を自国に誘致することを意味するが、日本では、購買力の高い中国人観光客にその期待が寄せられている。

 少し前までは、宿泊施設の間で「備品が盗まれるのでは」といった警戒感があったり、「日本人常連客が離れるかも」といった飲食業界の不安などもあり、インバウンドビジネスはむしろ敬遠すべきものと捉えられていた。

 だが、ここに来てそれらの懸念は払拭されつつある。

 東日本大震災の影響もある。日本の旅行関連業界では「なんとか旅行客を取り戻さなければ」という危機感が強い。

 北海道で宿泊施設を経営する野口観光グループ(登別市)の幹部も、「観光客を『受け入れる』という受動的な態度ではなく、これからはこちらから情報を『発信』することで、積極的に中国人観光客にPRする必要がある」と語る。

 中国人観光客も旅慣れてきた。団体ツアーで訪れた日本が気に入り、今度は個人旅行で行ってみたいという客が増えている。

 日本の旅行業者にとっても、個人旅行者相手には高級な施設やサービスを売り込みやすい。個人旅行は、双方にメリットをもたらす。

中国人向け日本情報紙の強引な広告営業

 日本の旅行業界にとっての今後の課題は「発信力」を高めることだ。旅館やホテル、観光地の飲食業者や小売業者たちは、中国人観光客に自分たちの施設や商品を選んでもらうための試行錯誤を繰り広げている。

 そこに商機を見出し、日本の業者からの広告掲載料を当て込んだビジネスを展開する中国の事業者も多い。

 2010年度、日本を訪れた中国人観光客の数は140万人を超えた。これを前後に、多くの中国人観光客向けの日本情報メディアがそのビジネスに参入した。既存の中国人向け情報メディアの参入もあった。複数の中国語のフリーペーパーも創刊した。広告収入の増加が頭打ちになっている中で、新たな市場を見出したのである。

 ところが、日本の広告主との間で不協和音が響き始める。まず、「営業が強引だ」との批判が高まるようになった。

 大手メーカーA社の広報担当者は、在日中国人と中国人旅行客に向けた情報紙の“中国流営業”のどぎつさに顔をしかめる。