市場との戦いで政策当局側が勝負に出たとみられる、欧州通貨統合防衛のための政策パッケージ(EU・IMFによる最大7500億ユーロの緊急融資スキームと、ECBによる国債買い入れ)。ドイツやイタリアなど欧州各国の中央銀行がECBの決定に沿って10日に早くも流通市場からの国債買い入れを開始したこと(ユーロ圏16カ国の中央銀行すべてが国債買い入れに着手したとの報道が複数あり)から、この日の欧米市場は、株式・債券市場で「質への逃避」が急速に巻き戻される、大きな動きになった。

 欧州の主要株価指数は軒並み反発し、米国ではニューヨークダウ工業株30種平均が急反発。終値は10785.14ドル(前日比+404.71ドル)となった。前日比上昇幅は昨年3月23日に記録した+497.48ドル以来の大きさである。欧州債券市場では、資金の逃避先になっていたドイツ国債が売り戻される一方、ギリシャやポルトガル、スペインなどの国債が急速に買い戻され、対ドイツ国債スプレッドが急縮小した。

 しかし、外為市場のユーロ相場については、買い戻しの動きは早々に潰えた。シカゴ先物市場(CME)に上場されているユーロ通貨先物(対ドル)の非商業取引建玉バランスが5月4日時点で10万3402枚という過去最大の売り越し幅になっていたことからうかがえるように、ユーロのショートポジションがたまっていたため、ショートカバーの買いが先行し、ロンドン市場では対ドルで一時1.3095ドル、対円で一時122.29円まで上昇した。しかしユーロはその後、値を消す展開。ニューヨーク市場では対ドルで1.27ドル台後半、対円で119円割れの水準まで反落することになった。

 筆者は5月10日作成「『火事』を消すために」で、次のようにコメントした。

「ECBがユーロ圏諸国の国債を流通市場から買い入れた場合、個別国の信用リスクをECBはバランスシートに抱え込むことになる。すなわち個別国の信用リスクの『コンテイジョン(感染)』がユーロという通貨に直接及ぶことから、ユーロ相場の下落要因になる」

「長めのユーロ資金の供給強化策は、ECBの『出口』戦略の逆回転を意味している」

「EU・ECB・IMFによる今回の動きは明らかに、市場に対して『先手を打つ』狙いが込められたものとみることができる。そしてそれは、ユーロという通貨の価値を半ば犠牲にしつつ、欧州通貨統合のシステム全体は市場の攻撃から全力で防衛しようとするものである」

 上記からもご理解いただけると思うが、(1)ECBなどのバランスシートが財政事情の悪い国の国債を買い入れることで劣化するリスクの増大、(2)「出口」戦略の逆回転によってECBの利上げが事実上さらに遠のいたこと、(3)今回の緊急融資スキームは欧州通貨統合に内在する制度的欠陥そのものを打ち消すものではないこと、の3点ゆえに、ユーロ相場は今後も下落余地を探りやすいものと、筆者は予想している。