7日開催のEU緊急首脳会議が打ち出した、通貨統合参加国への緊急資金支援を行うためのスキームの具体的な内容が、9日のEU緊急財務相理事会で決まった。議論は紛糾した模様で、ようやく結論が出たのは、10日の東京市場で取引が開始された後だった。複数のEU高官発言をもとにすると、今回の合意内容は以下の通り。
◆緊急融資を行うためEUが創設する基金は600億ユーロ
◆ユーロ圏諸国による融資保証の枠は4400億ユーロ
◆IMFが最大2500億ユーロの資金支援を追加できる
◆ECBは流通市場でユーロ圏諸国発行の国債を購入する(「証券市場プログラム」)
◆ECBは米FRBとドルスワップ協定を再締結し、ドル資金供給オペを5月11日から再開
◆ECBは長めのユーロ資金供給を強化(3カ月物と6カ月物で無制限資金供給を実施)
直接融資と融資保証を単純に合計すれば5000億ユーロ。国際通貨基金(IMF)による最大支援額を加えれば7500億ユーロ(1ユーロ=118円換算で約88.5兆円)という巨額になる。
5月7日に突如行われた欧州中央銀行(ECB)と民間銀行との間の電話協議は、ECBが金融市場の実態を把握した上で大胆な動きに出るためのステップだった。
ECBがユーロ圏諸国の国債を流通市場から買い入れた場合、個別国の信用リスクをECBはバランスシートに抱え込むことになる。すなわち個別国の信用リスクの「コンテイジョン(感染)」がユーロという通貨に直接及ぶことから、ユーロ相場の下落要因になる。このため、国債買い入れについてはECB内の抵抗が強いとみられていた。また、流通市場からの買い入れではあるにせよ、その規模が膨らんでいく場合には、「マネタイゼーション(国債の貨幣化)」ではないかという疑義が強まり、ユーロ圏の財政規律に悪影響が及ぶ恐れもある。それでもECBが国債買い入れを決断したのは、欧州通貨統合が直面している過去最大の危機を収拾するためには、通常では取り得ない大胆な策を打ち出すしかないという、強い危機感ゆえだろう。ECBの声明文を見ると、ユーロ圏各国政府が財政健全化目標達成に向けてあらゆる努力を行うとしたことにECBは留意、とわざわざ書き込まれている。また、「証券市場プログラム」の狙いは機能不全に陥った公募・私募の債券市場に流動性を供給することにある、とECBは明記し、国債買い入れの目的が財政赤字のファイナンスではないことを、内外の市場参加者に認識させようとしている。