2月5日、サッカーのロンドン五輪アジア最終予選の日本VSシリア戦が行われ、1対2で日本が敗れた。これで日本とシリアは勝ち点9で並んだものの、日本は総得点で下回り、グループCの2位に転落した。

日本、シリアに敗れる ロンドン五輪アジア最終予選

シリア対日本。シリアのマルデク・マルドキアン(左)と日本の酒井宏樹(2012年2月5日撮影)。(c)AFP/KHALIL MAZRAAWI 〔AFPBB News

 今回の試合はアウェー戦のはずだったが、シリアが政情不安で危険なため、試合は隣国ヨルダンで行われた。衛星中継の映像は、会場にほとんど観客がいないという不思議な国際試合の風景だった。

 シリア代表にとっては、五輪出場に望みを繋いだ重要な1勝ではあったが、筆者が確認した限りでは、アラビア語メディアでもインターネットでも、この試合はまったく話題になっていない。それには大きな理由がある。

 試合前日の2月4日、ニューヨークの国連本部では、シリアの命運を大きく左右する安全保障理事会の重要な決議案の採択が行われていた。つまり、シリアの人々にとって、その時期はサッカーどころの状況ではなかったのだ。

シリアへの非難決議を巡って欧米諸国とロシアが対立

 シリアは先代の大統領から世襲した次男のバシャール・アサド大統領が極めて専制的な統治をしている北朝鮮並みの独裁国家だが、チュニジアやエジプトの「アラブの春」の影響を受け、2011年3月より民主化デモが発生。それを治安部隊が銃弾で弾圧し、すでに6000人以上の死者が出ている悲惨な状況になっている。

 2月4日の国連安保理の決議案というのは、そんな弾圧をストップさせるべく提案された、アサド政権に対する非難決議だった。それは、1月22日にアラブ連盟がシリア問題の解決のために採択していた「行程表」を支持するという内容だった。

 このアラブ連盟の行程表には、アサド大統領が大統領権限を副大統領に移譲することと、反体制派を含めた挙国一致政権の発足などが含まれていた。

 つまり、明確に政権転覆に道をつける内容で、これが国連安保理で採択されれば、独裁者による国民の“虐殺”が続くシリア情勢の流れを大きく変える一大転機となるはずだった。

 しかし、この決議案には、常任理事国のロシアが強硬に反対していた。シリアとロシアは冷戦時代から深い関係にあり、今でもロシアから多額の武器輸出が行われているほか、旧ソ連圏以外で唯一、ロシア海軍の補給基地があるなど、軍事的に準同盟関係と言えるほどの深い結びつきがある。アサド政権が倒れるということは、ロシアの国益に直に反することになるわけだ。