11月7日 損害保険大手のAIU保険日本支社(東京都千代田区)が、香川大学医学部付属病院を相手取って、同社が支払った3億5000万円自動車保険金のうち1億7500万円の損害賠償を求める訴えを起こしたことが明らかになりました。

 訴状によると、「交通事故に遭った女性が、事故直後にはなかった重度の四肢麻痺が生じたのは、救急搬送された病院が適切な処置を取らなかったためである」として、支払った保険金額の半額負担を病院に求めているとのことです。

 この訴訟は、医療機関を訴えた原告が患者でなく、自動車事故に遭った患者に保険金を支払った保険会社である点が、これまでの医療訴訟とは異なっています。

 今後の裁判の展開にもよりますが、「利益追求を主目的とする営利企業」が原告となり、医療訴訟がどんどん起こせるとなると、医師と患者双方にとって不幸な事態に陥りかねないと私は思うのです。

「請求権代位」制度の本来の趣旨とは

 今回の訴訟は、保険金を支払った損害保険会社が患者に成り代わる「請求権代位」を利用し、医療機関から保険金の一部を回収しようとして提訴されたもののようです。

 生命に関わる多発外傷の救急治療という、かなり難しい状況であったとはいえ、もし医療側に後遺症に関わる重大な過失があるならば、その責任を医療機関が一部負うのも当然だとは思います。

 しかし、本来「請求権代位」は、被災者に火災保険金を払った損保会社が、火災の原因を故意に引き起こした放火犯に対して保険金相当額を請求する事案などを念頭に置いて定められている制度です。

 故意に後遺症を残そうとして治療に当たったわけではない医療機関にまで、このように保険会社が損害賠償を求められるということが、私には驚きでした。