日銀は3月16、17日に開催した金融政策決定会合で、事前の観測報道と市場の織り込みに沿う形で、追加緩和を決定した。その手段である新型オペの拡充を、企業金融支援特別オペの終了を考慮した「量」の上積みにとどめるのか、それとも6カ月物や1年物の0.1%固定オペを新たに導入する形で新型オペの「ターム」の面でも緩和措置を強化するのかだけが、残された市場の関心事だったわけだが、日銀が下した結論は、「量」のみにとどめて、「ターム」は温存することだった。新型オペ拡充については、須田美矢子審議委員と野田忠男審議委員が反対したため、票決は5対2だった。

 具体的には、0.1%固定の3カ月物オペを10兆円上積みして、計20兆円とする(市場機能を維持する観点から10兆円上積みというのが十分予想される金額だった点については、3月8日作成「日銀の新型オペ拡充」参照)。1回当たり8000億円程度で、週2回ペースでオファーされる。

 新型オペを導入してターム物金利の低め誘導方針を打ち出した昨年12月1日の臨時会合と、今回の会合について、対外公表文を簡潔に比較してみると、次のようになる。公表文のタイトルが、今回は「当面の金融政策運営について」となっており、昨年12月のような「金融緩和の強化について」にはなっていないことに留意されたい。特別オペ終了分の補填が半分以上という計算になる今回の10兆円上積みは、半ばテクニカルな措置であり、明示的に「金融緩和の強化」だと宣言することに、日銀としてもためらいがあったのかもしれない。公表文のうち「今回のやや長めの金利の低下を促す措置の拡充もこうした方針に基づくもの」という部分は、今回の決定はあくまでも従来からの方針の延長線上の措置だ、という書き方である。

図表1: 日銀による新型オペを用いた追加緩和策昨年12月と今回の対外公表文比較
  昨年12月1日 3月17日
題名 金融緩和の強化について 当面の金融政策運営について
追加緩和の内容 新しい資金供給手段の導入によって、やや長めの金利のさらなる低下を促すことを通じ、金融緩和の一段の強化を図ることとした。 4月以降、企業金融支援特別オペレーションの残高が漸次減少していくことを踏まえ、固定金利オペを大幅に増額することにより、やや長めの金利の低下を促す措置を拡充することとした。
リスク要因の
追加的な記述
しかし、このところの国際金融面での動きや、為替市場の不安定さなどが企業マインド等を通じて実体経済活動に悪影響を及ぼすリスクがあり、この点には十分な注意が必要である。 n.a.(前回2月会合時点と同じ)
追加緩和の狙い 日本銀行は、きわめて低い金利でやや長めの資金を十分潤沢に供給することにより、現在の強力な金融緩和を一段と浸透させ、短期金融市場における長めの金利のさらなる低下を促すことが、現在、金融面から景気回復を支援する最も効果的な手段であると判断した。 日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題であると認識している。そのために、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針である。今回のやや長めの金利の低下を促す措置の拡充もこうした方針に基づくものであり、金融政策運営に当たっては、今後とも、きわめて緩和的な金融環境を維持していく考えである。

出所: 日銀

 3月15日に発表された2月の消費動向調査の内容は、無理やり理屈付けをしてでも金融緩和を強化しようとする向きにとっては「逆風」だった(3月16日作成「追加緩和には本来『障害物』」参照)。「量」を10兆円このタイミングで上積みしようとするだけでも反対2票だったわけで、仮に新型オペを「ターム」でも拡充しようとする場合には、反対票が増えていた可能性もあるだろう。

 結果として、日銀は新型オペ拡充のカードを使い切らずに、日銀短観3月調査の発表や、次の展望レポート作成に臨むことになった。

 日銀の決定内容を受けて、債券や円金利先物では若干の失望売りが先行したが、日銀の政策が引き締めではなく緩和の方向を引き続き向いているという重要な事実に変わりはない。売りは続かず、2年債利回りが0.135%に低下するという、金利低下方向の動きも出てきた。

 長期金利は4~5月にかけて低下余地を模索するだろうという筆者の予想に変わりはない。