10月16日(現地時間)、ラスベガス・モータースピードウェイで行われていたインディカー・シリーズ(アメリカにおけるフォーミュラカー・レースの最高峰)のレース中に起こった多重衝突の中で、トップドライバーの1人、ダン・ウェルドンが死亡した。

 翌週23日、マレーシアのセパン・サーキットで行われていたモーターサイクルレースの最高峰、Moto GPの決勝レースの中で、次世代のチャンピオン候補の1人と期待されていたマルコ・シモンチェリが転倒、後続車にはねられて亡くなった。

 個人的にはもう1件、モータースポーツ競技の中で痛ましいアクシデントが起きていたことを書き記しておきたい。

航空機レースでも重大事故が発生

 9月16日(現地時間)、アメリカ・ネバダ州リノ市郊外のステッド空港上空で行われていたエアレースの最速クラス、アンリミテッド(無制限)のレース中にジミー・リーワードが操縦する機体、愛称「ギャロッピング・ゴースト」がコントロール不能状態に陥って観客席近くに墜落、パイロット自身と11人の観客が死亡、数十人が重傷を負った。

 このアクシデントについて、現地の事情をほとんど知らずに、背景を調べることもほとんどしないままニュース映像だけを引用した日本の多くのメディアは「航空ショーのアクロバット飛行の事故」と報じたが、そうではない。

 地上に描かれた楕円形状の周回コースに沿って、すなわちその上空に3次元のオーバルトラックとして仮想的に描かれるコースを、複数の機体が同時に飛行して速さを競う、航空機によるレース競技である。

 「ギャロッピング・ゴースト」も参加していたアンリミテッドクラスは、1周13.6キロメートルのコースを平均速度でも時速700キロメートルかそれ以上(最速記録は時速816.08キロメートル)で周回し、旋回を続ける機体とパイロットの身体には6G(通常の重さの6倍の重力加速度)が加わるという、強烈な「モータースポーツ」なのであって、1920年代からずっと続いてきているものだ。

 モータースポーツは、危険なものである。この現実を避けて、この「スポーツ」に接し、楽しみ、語ることはできない。いや、あらゆるスポーツにおいて人々は「危険」に接している。安全なスポーツはない。

 ただ、肉体の能力を大幅に拡大する運動が可能な道具を操って、その限界領域に踏み込むのがモータースポーツなのであって、だからアクシデントやインシデントの瞬間に姿を現す危険は、肉体そのものを動かし、競い合うスポーツよりも大きい。だからこそ、自ら操る者、そこに関わる者、見る人々の安全を高める努力はずっと続いているのだが。

 しかし時として、重大事故が続くタイミングが現れる。そうした厳しい波を改めて痛感した1カ月だった。