リーダーは鬼であるべきか? 仏であるべきか? 人の上に立つ立場の人にとって、永遠のテーマと言っていい難題です。
鬼は、萎縮する部下を見て「オレが優しく扱わなきゃ、こいつらは実力を発揮できないのか?」などと悩みます。仏も同様で、「こいつら、オレが優しい顔をしているから怠けているのではないか?」と悩んでいたりします。
マキァヴェッリの結論は、「どちらでもかまわない」です。いや、正確にはマキァヴェッリにも結論は簡単に出せなかったと言うべきかもしれません。「君主論」と「ディスコルシ」でマキァヴェッリは違うことを言うのです。
「ローマ軍腐敗の元凶」と言われた「仏」の将軍
まず、「君主論」でマキァヴェッリは以下のように述べて、どちらかと言えば鬼を推奨しています。
<人間は恐れている人より、愛情をかけてくれる人を容赦なく傷つける。>(君主論)
第2次ポエニ戦争を戦ったカルタゴの名将ハンニバルとローマのスキピオは、敵同士であっただけでなく、性格も対極的でした。
ハンニバルの軍隊は多数の民族の寄せ集めで、統率の取りにくい軍隊でしたが、兵士の間のいざこざや反乱は一切起きなかったことで知られています。その理由は、ハンニバルが「非人道的」と言えるほどに冷酷な人物で、兵士たちは畏怖していると同時に、彼を恐れたからです。
これに対して、ローマのスキピオは温情豊かで、兵士からも好かれました。しかし、兵士に勝手気ままをさせて反乱を起こされたり、自分の派遣した政務官が横暴なあまりロクリス人を滅ぼしたりしても、処罰しないなどしていため、ファビウス・マクシムズに「ローマ軍腐敗の元凶」呼ばわりされたりしていました。それゆえ、マキァヴェッリは「仏より鬼の方がいい」と結論づけたのです。
これは現代のビジネスマンにとっても、納得しやすい考えかもしれません。いわゆる鬼のいる職場では社員はピリピリしており、緊張感があふれています。これに対し、仏の上司のいる職場では、ややもすれば雰囲気は弛緩し、不真面目な部下は適当にさぼっていたりします。
しかも、鬼になった方が、ストレスも少なくなります。部下は怖がって反抗してきませんし、不満のはけ口は、より弱い者に向きます。部下の奥さんがどれほど旦那に当たられようと、自分には関係のないことです。