「世界2位の経済大国」の座を日本が中国に明け渡す日が刻々と近づいている。既に証券市場では2009年の株式売買代金で東京は上海に追い抜かれてしまい、「アジア首位」から転落した。果たして、東京マーケットの地盤沈下に歯止めは掛からないのか。
JBpressは東京証券取引所グループの斉藤惇社長に単独インタビューを行い、グローバル市場が直面する課題や東証の「ポスト金融危機」戦略などを聞いた。(2010年2月5日取材、前田せいめい撮影)
JBpress 2009年の株式売買代金で東証は上海に追い抜かれた。市場間競争の現状をどう見ているか。
1963年慶大商卒業 野村證券入社後、副社長などを歴任 2003年産業再生機構社長 2007年6月東京証券取引所社長 同年9月東京証券取引所グループ取締役兼代表執行役社長
斉藤惇氏 日本の株式が香港やロンドンに行ってしまっているのか、と言えばそんなことはない。日本企業の99%以上が東証に上場している。
問題は別のところにある。アジアが高成長を続ける一方で、過去20年間の日本はゼロ成長に近い。日本全体で近隣国・地域の大変な成長を取り込めなかった。東証もそうだし、政府や企業の戦略がまずかったのだと思う。
日本の個人金融資産は1400兆円超もあり、GDP(国内総生産)もこれまで世界2位だったのに、まるで山を登り終えてしまったかのようだ。一方、米国はずっとナンバーワンの座にあるが、成長を続けてきた。そういう意味で、日本も東証もしっかりしないといけない。
本来は中国やインドはじめアジアの企業が大きくなる過程で、東証あるいは東京マーケットに彼らを迎え入れなくてはならなかった。
野村證券時代、私は中国の海外債券(発行の)第1号を手掛けた。まだ日本の企業はほとんど進出していなかったが、われわれは中国という国家にカネを付ける仕事をした。ところがそれは続かず、(中国との関係が)切れてしまった。後から(中国の成長性に)気が付いた米国にさらわれてしまった。
その後、虎(=中国)が目を覚ました。人口を考えれば、(日本の株式市場は)中国よりも小さくなる。人口が多い方が上場企業数や株式売買代金、時価総額も大きくなる。
今、日本をガタガタと動かしているのは、パソコンや携帯電話を持って歩いている人々。「朝青龍はおかしい」と(メールで)打った途端、横綱のクビが飛ぶというのはすごい国だと思う。「自民党がおかしい」となれば、50年以上続いた体制も(崩壊してしまう)。「おかしいよな?」→「おかしい! おかしい!」という時代に突入している。
グーグル問題でもそうだが、中国はそうなっていない。だから今の上海は市場ではなく、べニュー(場所)でしかない。市場になってほしいし、(将来は)なると思う。「市場間競争」と言われるが、リンゴをミカンと比べている側面もある。