今か今かと待ち続けるキノコの発芽

マツタケ、人工栽培への道(後篇)

2011.10.28(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

 香りは上品。形も美しい。マツタケは、日本の秋味をつくりだす代表的な食材の1つだ。そのマツタケの生産量が、日本人の“里山ばなれ”やマツ枯れ拡大などのために減っている。

 日本の林で再びマツタケを増やすには「人工栽培」の方法を確立することが決め手となる。

 後篇では、茨城県林業技術研究センターの小林久泰氏に、同センターのマツタケ人工栽培の研究の道のりを聞く。長く険しい道のりを、研究者たちは今なお歩き続けている。

 マツタケの人工栽培化の研究は、苦闘と挫折の連続だった。マツタケの世界に人の手を加えるのは、とても難しいことなのだ。

 マツタケの人工栽培はなぜ難しいのか。

 主な理由に挙げられるのは、マツタケは生きている木の根でしか成長しないということだ。シイタケやエノキダケは死んだ木も自分たちの棲み処にする。対して、マツタケは、マツが光合成でつくりだす栄養をつねに受けながら生きる。マツとマツタケという、生きているものどうしの関係の中に、人が手を入れて成長を促すのは簡単なことではない。

 100年以上になるマツタケ研究の歴史があるにもかかわらず、人工栽培の方法が確立されていないという点からも、その難しさがうかがえる。

苗づくり、植え付け、菌の増殖という3つのステップ

 至難の業のマツタケ人工栽培に挑み続けている研究機関は多い。その1つが、茨城県林業技術センターだ。1991年に「きのこ特産技術センター」を設置し、マツタケの人工栽培のための研究を本格化させた。今は、97年から20年間にわたる長い計画研究の最中にある。

 同センターは、マツタケの人工栽培について、明確なステップを掲げている。それは、「苗づくり」「植え付け」「菌の増殖」という3つからなる。

 まず、マツタケの菌が感染したマツの苗を人工的につくる。そして、それをマツ林に植えてマツタケ菌を定着させる。最終的に、マツ林に「シロ」とよばれる“マツタケ安住の地”をつくりだす。これが3つのステップだ。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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