周りを中国山地に囲まれ、中山間地の典型である豪雪地帯の島根県飯南町で4年前、太陽光発電パネルを付けた家族がいる。

 折しも、今年3月11日に起きた東日本大震災による福島第一原子力発電所事故で、再生可能エネルギーが注目を集める中、それよりはるか以前の「条件不利地」での「新しもの好き」家族の決断は、先見の明があったのか、それとも無謀な投資だったのか。

 そして、太陽光発電の普及を阻むのは、決して「条件不利地」ではなく、中山間地ならではの根深い問題だった。

何でも一番が好きな家系

島根県飯南町頓原

 「これを見てくれ」。今年3月、飯南町役場に勤める田中慎二さん(49)が、職場でズボンのポケットから黒く輝くスマートフォンを取り出し、同僚に見せた。

 週末に長男・祐一朗君(15)を伴い、最も近い“都会”である出雲市内のドコモショップで購入。1週間パンフレットで吟味し続けた自慢の品だった。

 「すごいじゃないですか」。思った通りの同僚の反応に思わず口元が緩んだ。

 標高約440メートル、辺り一面を山と田畑に囲まれた飯南町頓原の上区泉川地区に住む田中家。慎二さんと妻、母親、息子3人の6人家族だ。

 スマートフォンだけではない。自宅近くの畑には、6年前に約420万円で購入したエアコン付きのトラクター。農作業の際に大好きなドリームズカムトゥルーの歌を流すため、車内にはCDプレーヤーを付けた。

 50年以上前、慎二さんの父親は地区で初めてテレビを買った。生まれた時には白黒のブラウン管から力道山が活躍するプロレスが流れ、親類や近所の人が毎日のように集った。

 「引っ込み思案で目立たないようにしている」とうそぶく慎二さんの横で、祐一朗君が「何でも目立とうとするのは家系なんです」と、その血が自分にも流れているのが嫌だと言わんばかりに視線を落とした。