緑色の粉に見る日本の「ものづくり」の原点

日本人と「抹茶愛」(後篇)

2011.09.26(Mon) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

 日本の抹茶文化は、まもなく息を吹き返していった。

今や抹茶の9割が加工用

 戦後になると、抹茶にも“現代の視点”が注がれるようになる。

 昭和30年ごろからは「品種」という概念が抹茶づくりにも入ってきた。「雑種だと出芽の時期も、葉の大きさもばらばら。品種を管理すれば、一斉に出芽させて一斉に摘みとることができます。お茶の品評会でも、品種を管理したお茶が上位を占めるようになっていきました」

 抹茶用の品種としては、京都府の宇治地方で育てられる「宇治茶」の各種が代表的だ。

 「あさひ」は、まろやかな味が特徴の高級抹茶。宇治の茶業研究家・平野甚之丞が生みの親だ。「さみどり」は、同じく宇治の小山政次郎が地元の茶園から選抜・育成したもの。葉に光沢があり、香味にも優れると評価されている。また、「ごこう」はミルクのような甘い香りが特徴だ。この他、煎茶の原料として全国的に栽培されている「やぶきた」も、抹茶に使われている。

 もう1つ、現代の抹茶を語るうえで欠かせない出来事がある。抹茶が加工用として人びとに広く供されるようになったことだ。

 抹茶の粉末を「お茶を飲む」ために使うのでなく、和菓子、洋菓子、さらには麺類などに練り込んで「食品として食べる」うえで使う。おそらく大多数の人は、茶の湯で抹茶に触れるよりも、百貨店やコンビニエンスストアの棚に置かれた緑色のアイスクリームや、コーヒーショップのメニューにある緑色のコールドドリンクの形で抹茶に触れるのではないだろうか。

 「抹茶には業界がないため、加工用の消費量についてのまとまったデータはないのですが、碾茶の生産量は農林水産省がデータをとっています。1980年代までは400万トンほどで横ばいでしたが、その後、碾茶全体の生産量は急激に増えました。この時期から加工用が加速的に増えていったのだと考えられます。これらデータから、現在の抹茶全体の年間生産量は3000~4500トンで、このうちの約9割が加工用だと私は推測しています」

ナノテクが抹茶に付加した新たな価値

 これだけ抹茶が様々な食品で使われるようになると、当然ながら抹茶の製造技術も進化していく。とりわけ加工用の抹茶で重要になってくるのが、粒径、つまり抹茶1粒の大きさだ。

 「抹茶を粉末として考えたとき、粒径が小さくなると、今までにない特性が現れてきます。ここ10年ほどのナノテクノロジーの進化によって、新たな付加価値が生まれてきています」

(注)「抹茶」には「碾茶を石臼で挽いたもの」という定義がありますが、本記事では種々の粉砕機で粉砕したものも抹茶として扱います。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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