その色は淡い緑。味はほんのり苦く、香りはすっと鼻になじむ。「抹茶」は、日本で数百年以上の歴史をもつ、伝統ある嗜好品だ。現代に入っても、日本の抹茶文化は大きな変貌を遂げつづけてきた。茶の湯に供されるだけでなく、和菓子、洋菓子、主食などに抹茶の粉が練り込まれた「抹茶味」の食品が増えつづけている。

 抹茶が日本の食を象徴する重要な役であることは、だれもが認めるところだろう。とはいえ、伝統が続かずに廃れていく食もあるなかで、こうも抹茶が現代の日本人の舌になじんでいるのはなぜなのだろうか。

 そんな「日本人の抹茶愛」を探るべく、抹茶を含むお茶の研究をしている伊藤園中央研究所食品科学研究室の沢村信一室長に話を聞いた。

 日本的嗜好品としての抹茶の伝統はどのように誕生して発展を遂げたのか。そして、今、抹茶に対してどのような科学・技術の視線が注がれ、抹茶文化はどのように進化しようとしているのか。前篇では抹茶の歴史を、後篇では抹茶の科学と技術を中心に伝えていきたい。

 コンビニエンスストアの食料品を覗いてみると、あらためて「抹茶味」の豊富さに驚かされる。ようかん、あんみつ、どらやきといった和菓子、アイスクリーム、ロールケーキ、プリンといった洋菓子、それにパンや麺類などの主食。そこかしこに「抹茶味」がある。どのコーヒーショップに入っても、抹茶入りのラテやコールドドリンクがメニューにある。そしてよく売れている。

 一言でいうと、日本人は抹茶味が大好きなのだ。

 古くから日本にあった伝統食であるということを考えれば、日本人の抹茶味好きは不思議なこととは言えない。しかし、ただ歴史が長いということだけでは、その食が好まれることにはならない。伝統を保ってきた食にも廃れたものはあるのだから。今の日本人を惹きつける何かが、抹茶にはあるはずだ。