20日午後に公表した11月の月例経済報告で、日本経済は「デフレ」である、と政府は公式に宣言した。「デフレ」という言葉を政府が月例報告に前回盛り込んでいた時期は、2001年3月~2006年8月。日銀が量的緩和政策を行っていた時期と、ほぼ重なり合っている(11月17日作成「『デフレ公式宣言』に動く政府の思惑」を参照)。

 具体的には、今回の月例報告には、次のような文章が盛り込まれた。

 「物価の動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況にある」

 「先行きについては、当面、厳しい雇用情勢が続くとみられるものの、海外経済の改善などを背景に、景気の持ち直し傾向が続くことが期待される。一方、雇用情勢の一層の悪化や海外景気の下振れ懸念、デフレや金融資本市場の変動の影響など、景気を下押しするリスクが存在することに留意する必要がある」

 「消費者物価の基調を『生鮮食品、石油製品及びその他特殊要因を除く総合』(いわゆる『コアコア』)でみると、緩やかな下落が続いている。9月は、季節調整済前月比で0.1%下落した。『生鮮食品を除く総合』(いわゆる『コア』)は、緩やかな下落傾向で推移している。ただし、9月は季節調整済前月比で0.1%上昇した。先行きについては、消費者物価(コアコア)は、引き続き緩やかな下落傾向で推移すると見込まれる。こうした動向を総合してみると、持続的な物価下落という意味において、緩やかなデフレ状況にある」

 政策の基本的態度に関する記述のうち、日銀に関する部分は、「日本銀行に対しては、我が国経済が、物価安定の下での持続的成長経路に復帰するため、引き続き政府との緊密な連携の下で、適切かつ機動的な金融政策運営を期待する」で、前月と同じだった。

 これより前、同日午前の閣議後会見で、菅直人副総理・国家戦略・経済財政相は、「デフレ状況という認識は私も申し上げているところで、こういう状況では金融の果たすべき役割も多い」「政府としての認識は、機会があれば日銀にきちんと伝えたい」と発言した。

 菅副総理は来日中のグリア経済協力開発機構(OECD)事務総長と前日に会談して、デフレに関して共通の認識を確認したという。そのグリア氏は、「日銀はデフレと戦うべきだ」として、超低金利政策の継続に加えて、国債買い切りオペ増額などを含む広範な量的緩和措置を実行することがインフレ期待を押し上げる一助になるかもしれないとの見解を示している。菅副総理によると、グリア氏との会談は「個別のそのような話ではなかった」ということだが、市場としては気になるところ。デフレ問題における経済財政担当大臣の「金融の果たすべき役割」への言及は、小泉純一郎内閣の時に、経済政策の司令塔を務めた竹中平蔵経済財政担当相(当時)が頻繁に行っていたことでもある。

 一方、藤井裕久財務相は閣議後会見で、国内におけるデフレ懸念の強まりについて、「大変な危機意識を持っている。今の状態は正しい姿ではない。こうした事態が続くことは、デフレ宣言をするかしないかは別にして、経済運営の上で考えるべき重要なポイントの1つだ」と発言。しかしデフレ対応策に関しては、「大規模な公共投資をしても物価が上がるとは思えない」「いま、日銀が相当な超低金利政策を行っていることは間違いない。そこの限界もあるのだろう」と述べた。日銀の現在の金融政策運営と、金融政策ができることの限界について、一定の理解を示した内容と受け止められる。

 一般の消費者からすれば、いまの日本がデフレだというのは、「食のデフレ」「衣のデフレ」を目の当たりにしている日々の生活実感からすると当たり前のことで、今さら公式に政府から宣言があっても特段の感慨はないし、消費行動への特段の影響もないということだろう。

 筆者は、日本経済は「慢性的なデフレ」だと、引き続き見なしている。[1]人口減・少子高齢化という人口動態を主因にして国内需要は「地盤沈下」を継続中で、過剰供給と過小需要というデフレ構造が慢性化していること、[2]グローバルな金融危機・同時不況から日本の経済・企業収益・雇用所得環境が大幅に悪化したことによるデフレ圧力の増幅、[3]為替の円高による追加的なデフレ圧力。これらが複合して作用し、デフレが徐々に強まっている。