米セントルイス連銀のブラード総裁は18日、講演および講演後の質疑応答、記者団とのやり取りで、次のように述べた。ブラード総裁は、来年の米連邦公開市場委員会(FOMC)で投票権を有する。

 「過去2回のリセッションが終わった後、2年半~3年たつまで、FOMCは利上げを開始しなかった」

 「そのことは、FOMCが1990年代と2000年代という過去に取った行動様式であるがゆえに、頭の中でベースラインになるはずだ」

 「もしそのことを基準に据えるならば、今回の利上げ開始は2012年前半ということになる」

 「FOMCが今回はそんなに長い間、実際には待たないだろうと考える理由が存在する。それは、『あまりにも長い間低すぎる(too low for too long)』という議論があり、それが力のある主張であるからだ」

 「それ(低金利)は明らかに、われわれに対して多くの問題を生じさせ、今回の危機で爆発した。したがって、われわれは先行き、この問題を議論し、それについて考えていかなければならない」

 「バブルを認知するのは、非常に困難だ」

 「アジアの不動産市場に問題があるとしても、だから米国が利上げすべきだというのは、あまり実際的な話ではない」

 市場ではほとんど材料にならなかったが、ブラード総裁は上記のような過去2回の米金融政策の運営実績を単純にあてはめると利上げの開始は2012年にずれ込むことになるというコメントを、これまでも行っている(10月11日の講演、11月9日のフィナンシャル・タイムズ米国版)。そうした機械的な利上げ先送りシナリオを阻んでいる最大のリスク要因が、資産バブル発生への懸念、すなわち『あまりにも長い間低すぎる』という議論であることが、今回の講演などで浮き彫りになった。

 ただし、米国の超低金利政策がドルキャリー取引を通じて、あるいはドルに為替相場をペッグしている国・地域(例えば香港)のやむを得ない超低金利継続を通じて、アジアの不動産市場でバブルを引き起こしていることについては、ブラード総裁は、米国が利上げに動く根拠にならないという見方も、はっきりと示した。米国の景気回復をしっかりしたものにすること(より正確に言えば米連邦準備理事会=FRB=の責務である米国の最大雇用と物価安定を実現すること)が当然、米金融当局の最優先課題であり、アジアなど他国の経済にバブル発生およびその後の崩壊を通じて大きな変動が生じることについては、基本的には関知しない、ということである。

 一方、超低金利継続に反対する向きが有力な根拠にしがちなもう1つの要因であるインフレ懸念については、11月4日のFOMC声明文で、超低金利政策の継続が正当化され得る根拠を具体的に3つ、列挙したことで、タカ派の懸念を当面封じ込めた形になっていることに留意されたい(11月5日作成「米FOMCは『時間軸』を修正せず」参照)。実際、タカ派地区連銀総裁の筆頭格であるフィラデルフィア連銀プロッサー総裁は11月12日、「短期的にインフレを懸念していない」「わたしが懸念するのは中長期的なインフレだ」と、インタビューで語っている。

 以上のような状況ということになると、(1)景気(特に失業率がいつ低下に転じるか)、(2)物価(FOMC声明文に記載された3条件の実際の動き)、(3)金融システム(FRBによる貸し出し担当者調査の内容を含む)に加えて、(4)米国内での新たなバブル発生の懸念がFOMC内で強まっているかどうかを、超低金利政策がそのまま継続されるかどうかをチェックしていく上で、市場はテーマの1つにする必要がある。