かつて巧みな情報戦でイングランド銀行(BOE)に勝負を挑み、英国ポンド市場を荒らしていた投機家がいた。ジョージ・ソロス氏らが市場の「隙」を突き、巨万の富を築いたのである。

 今、日本の金利市場でも情報戦を仕掛けながら、富を得ようと蠢いている投機筋が存在感を増し始めた。米系を中心とする外国人投資家だ。

 民主党政権の発足に伴い、小泉改革以来の財政健全化の流れが変わり、「国債発行に歯止めが掛からなくなる」という警戒感が台頭した。また、景気低迷による税収下振れを補うため、2009年11月から1回当たりの国債発行額が増加している。

 一方、各国中央銀行は金融危機後に講じた非伝統的手段から、その「出口」を摸索するメッセージを発信するようになり、金利が上昇する土壌が出来上がりつつある。

 こうした隙に乗じて、海外投機家は日本国債の信用力を示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を買いで出動した。日本国債を保有するリスクの数値化を大義名分に、それが「完全に正しい」情報のごとく新聞紙上などで独り歩きする。投機家はCDSを買う一方で、金利スワップや国債先物などのオフバランス市場で金利上昇に向けた取引も行っている。

 新政権発足以来、日本国債のCDSが拡大し始めた。国債の信用力が低下すれば、一種の「保険料」であるCDSは拡大する。35bp(ベーシスポイント)台から2009年10月には一気に70bp台に突入。投機筋の読み通り、財政悪化懸念とCDSの上昇が市場参加者の目には不気味に映り、10年物金利は一時1.485%まで上昇した。日本の金利市場は海外勢に翻弄されている。

IMF警告、投機家には格好の材料に

 しかし、本当にCDSは日本国債の実力を示しているのだろうか。少数の市場参加者によって歪められた「評価」が一方的に押し付けられていると筆者は感じる。CDSと財政問題を巧みに絡ませた今回の金利上昇には、違和感を覚えずにいられない。

 国際通貨基金(IMF)は2009年11月3日公表した「世界財政調査」の中で、日本の公的債務について警告を発した。2014年には、対GDP比率で245.6%にも達するというのだ。