行政刷新会議の「事業仕分け」では、厚労省の診療報酬(概算要求額は9兆3612億円)も対象になり、議論が行われました。

 「デフレ傾向を反映させ、医療費全体の上積みを再検討すべき」という医療費削減案は、さすがに半分の賛成しか得られませんでした。

 その一方で、「収入の高い診療科の報酬の引き下げ」と「開業医と勤務医の収入格差を平準化すること」は賛成多数で「必要」と判定されました。

 偏ったデータを根拠にして、「楽して儲けていそうなところを削れ!」という結論だけが出されてしまった──。個人的にはそう思えてなりません。

 本当に困っているところへ予算を配分するという方策は、全く検討されなかったのです。まるで「自民党時代の財政制度等審議会のデジャブか?」と思わせる結果でした。

都合のいいように取り出された診療所の収益データ

 ここ10年で医師数が増加しているのは、精神科(20%)、皮膚科と整形外科(それぞれ15%)、眼科(13%)です。これらの科目はリスクが少なく、勤務時間が短いと思われているのが原因のようです。一方で、産婦人科医師は11%減少、外科医師は8%減少しています。

 科目によって、収益も違います。会議で資料として提示された「診療科別の損益差額(個人診療所の事業収益)」によれば、年額で整形外科が4200万円、眼科が3100万円、皮膚科が2800万、産婦人科が2500万円、精神科が2000万円、外科が1900万円でした(事業所の収益なので、個人の稼ぎではありません、念のため)。

 これだけ見ると、整形外科、眼科、皮膚科は稼ぎすぎである、報酬を下げるべきだと、思うことでしょう。

 しかし、この収益は、休日がないため収入が一番多くなる6月の月収入を12倍して計算されています。さらには、医療法人を含めた統計ではありません。医療法人を含めると、年間の損益差額は整形外科が2880万円、眼科が2580万円、皮膚科が2120万円、産婦人科が2700万円、外科が1460万円、精神科が1200万円まで低下します。