水産物が摂取した放射性物質の行方

太平洋に広がる放射能汚染水

2011.09.02(Fri) 秦 千里
筆者プロフィール&コラム概要

 ただし、海水中の放射性物質の濃度が高いほど、魚の体内の放射性物質の濃度も高くなるため、海水の濃度が低いに越したことはない。

 また、淡水魚の場合は、体内の方が体外つまり淡水よりも浸透圧が高いため、体内に水が入ってきやすく、放射性物質の排出に要する時間は長いことが知られている。

 食物連鎖により、生物種間で放射性物質が濃縮されることも心配の1つだ。「食べる・食べられる」の関係により、一般的には、食物連鎖の上位に位置する生物ほど、蓄積される化学物質の濃度が上がる。

 海洋中では、例えば「植物プランクトン→動物プランクトン→イワシ→マグロ」といった食物連鎖の流れがある。1950年代に起きた水俣病では、工場排水に含まれていた塩化メチル水銀が、食物連鎖を通して魚の間で生物濃縮し、これを日常的に摂取した人が中枢神経疾患を起こした。

 これまでの研究から、放射性セシウムなどの放射性物質は、水銀やDDT、PCBといった生物濃縮が話題になる物質と比べて、生物濃縮が起こりにくいことが分かっている。

 生物が、ある物質をどのくらい体内に蓄積しているかは、海水中の物質の濃度に対する生物中の物質の濃度を示す「濃縮係数」で表される。水銀の濃縮係数は360~600、DDTでは1万2000、PCBでは1200~100万であるのに対して、放射性 セシウムの濃縮係数は5~100、放射性ヨウ素では10ということが、これまでの海洋研究で示されている。

 とはいえ、放射性物質でも生物濃縮が起きていることにはなる。生物の種類によっても、各物質の体内への取り込みやすさは異なる。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

フリーライター。翻訳者。科学技術の分野を中心に、研究機関の広報誌や学会機関誌などへの記事執筆を行う。早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラム修了。


食の万華鏡

食の安全に対して国民の関心が高まっている。今後、安全で美味しい食の供給国としての日本を考えた時にもこの問題は重要になる。食の安全の話題を中心に、食トレンド、食品マーケットなど、食にまつわる様々なテーマを取り上げる。