シートベルトを締めるとほどなく、7.6トンの船体が「ふわり」と浮いた。飛行機離陸時のような重力や気圧の変化は全く感じない。ゆっくりと滑らかな上昇を続け、1~2分掛けて高度150メートルに到達。この段階でベルトを外し、機内を自由に動き回れる。一部の窓は開閉可能であり、秋風が実に心地よい。眼下には関東平野が広がり、その上空を歩いている錯覚に陥る。もし鳥になったら、こんな360度パノラマ風景を毎日見られるのだろう。(撮影=前田せいめい)
筆者が乗船取材したのは、世界に3隻しかない世界最大のドイツ製飛行船「ツェッペリンNT」。全長は75.1メートルに達し、ジャンボ機(ボーイング747‐400)を上回る。国内で飛行船の運送事業許可を唯一取得した日本飛行船(本社東京)が所有し、埼玉県・桶川の基地から東京・横浜方面などに向けて遊覧飛行を展開している。
なぜ今、飛行船なのか――。「空飛ぶクジラ」の魅力にとりつかれ、日本にその文化を根付かせようと奮闘する「飛行船野郎」を取材した。
邪魔者いない「低い」空、桶川から都心・横浜へ
航空機と違い、飛行船は雲の下を飛ぶ「有視界飛行」だから、乗客は「空中散歩」を満喫できる。半面、天候の影響をまともに受けてしまう。風速7メートルを超えれば飛び立たないし、離陸後も機長は「雷雲が来ないか」「風は強くならないか」と地上からの情報収集に余念がない。
飛行船は気球と同様、不燃性のヘリウムを浮力とし、推進力に限ってガソリンエンジンを使う。一方、飛行機は浮力と推進力の両方にガソリンが必要だから、燃費で比べれば飛行船が15~20倍も優れているとされる。
雨が降ると機体は100~200キロも重くなり、浮力が低下。逆に気温が上がればヘリウムが膨張するため、浮力は増す。空域の四季に応じた天候のクセを知らなければ、飛行船の操縦はできない。例えば桶川を離陸直後の上空は、風がぶつかり合う「難所」という。
取材当日(2009年10月16日)は気象条件が良く、揺れをほとんど感じない。ヘリコプターのような騒音とは無縁であり、船内での会話には全く問題ない。高度300メートルの「低い」空には邪魔者がいない。時折、ヘリやセスナ機を遠くに見かけるぐらいだ。
ゆっくり進んでいるようでも、巡航速度は時速80キロ(最高時速125キロ)。桶川から東京都内の高層ビル群を抜け、多摩川を渡って1時間足らずで横浜港上空に到達した。
上空から「鳥の目」で日本の心臓部を見ると、建物の高さや色彩がバラバラであり、狭い国土が有効に活用されていないと痛感する。「虫の目」で都市計画を作り、取り敢えず「開発」を進めてきた結果がそこに広がっていた。
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