大和総研の武藤敏郎理事長(前日銀副総裁)は米大統領選直後の11月5日夕、JBpressとの単独会見に応じ、オバマ次期政権の課題について「最初で最大の仕事は実体経済の早期回復を図るため、政策のパッケージを提示することだ」と指摘した。その上で、連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長の金融政策に関して「いざとなれば(ゼロ金利政策の導入も)考えている可能性は大いにある」と予測。また、先月末に0.2%利下げした日銀の政策運営についても「(経済環境が悪化した場合には)伝統的な金利政策から逸脱するかもしれない」と述べ、量的緩和政策が復活する可能性を排除できないとの認識を表明した。
JBpress オバマ次期政権の課題は。
武藤氏 最初にして最大の仕事は、サブプライム問題に端を発する市場の混乱を収め、実体経済の早期回復を図るため、政策のパッケージを提示することだ。来年1月の大統領就任を待たなくても、色々な(情報)発信はできる。財務長官や大統領経済諮問委員会(CEA)委員長、経済担当補佐官ら経済チームの人事が固まれば、政策の方向性は分かるだろう。
――ブッシュ政権の金融危機対応をどう見るか。
武藤氏 マーケットに追い込まれ、公的資金を注入せざるを得なくなった。日本では国民の説得にいちばん苦労したが、皮肉な見方だが、米国では市場の混乱がその手間を省いてくれた。プランは示されたが、問題は現実に資本注入が行われ、現実に不良資産が減るかどうか。「プランが本当に機能するのか」という不透明感があるため、市場はなかなか安定しない。
例えば、不良債権の買い取りに関して、具体的なガイドラインがいまだに示されていない。どれぐらいの規模でどこから何をどういう風に買うのか、すべてはっきりしていない。最大のポイントは買い取り価格。高ければ政府が損をし、安ければ銀行が損をする。「一度やってみないことには分からない」という状況だろう。総額も70兆円で十分なのかという見方もあり、不確実な点が色々ある。
――オバマ次期政権の財政・金融政策はどうなるか。
武藤氏 住宅価格がどうやって下げ止まるかが、非常に重要だ。オバマ政権が新たにつくる景気対策が、内需とりわけ住宅市場にどういう影響を与え、個人消費がどうなるかにかかっている。日本に比べれば、米国にはまだ財政出動の余地がある。
政策金利は1%まで下げたが、FRBのバーナンキ議長は「打ち止め」とは言っていない。状況にもよるが、更なる利下げがあり得る。ただ、現時点では喜んでゼロ金利にしたいとは思っていない。なぜなら、ゼロ金利に至った時の中央銀行の苦しみを、議長は日本に学んで非常によく知っているからだ。
しかし、「不況対策のプロ」としての議長は、いざとなれば(ゼロ金利政策の導入も)考えている可能性は大いにあると推察している。