4年前の郵政選挙を経て、郵政民営化法が成立した。2007年10日1日に民営化した日本郵政公社は、民間企業・日本郵政グループとして間もなく2歳の誕生日を迎えようとしている。

 しかし、政権を手にする民主党、社民党、国民新党の3党は、連立合意の中で、日本郵政グループの「4分社化体制の見直し」「ゆうちょ銀行などのグループ3社の株式売却の凍結」の方針を打ち出している。

 民営化路線は否定されるのか? その場合の影響は? 日本郵政公社の総裁を務め、民営化の土台を築いた生田正治・商船三井相談役に話を聞いた。(撮影=前田せいめい)

 JBpress 改めて、郵政民営化の意義とは何だったのか。

生田正治氏/前田せいめい撮影生田 正治氏(いくた・まさはる)
商船三井相談役。兵庫県出身。1957年慶應義塾大学経済学部卒、三井船舶(現商船三井)入社。87年取締役、94年社長、2000年会長。2000~03年経済同友会代表副幹事。2003~07年日本郵政公社総裁。

 生田正治氏 日本郵政公社が発足した時点の資金量355兆円は、当時のレベルで、国内総生産(GDP)の70%に相当する額だった。そのうちの約90%強が国債、財投債、地方債、地方政府への貸付金などの形で「官」に回り、特殊法人を通じて、無駄な投資にたくさん使われ、一部は不良債権化していた。

 「官」の資金の引き受け手としての郵貯の存在は、モラルハザードというよりも、既に、財政のハザードになっていたのだ。

 一方、郵政公社が「公」の存在であるうちは、運用に大きな制約が付き、巨額の資金を持っていても、民間の金融機関に比べて運用利回りは3分の1~4分の1のレベルに低迷していた。それは、事業としての損だけでなく、国家として、潜在的な富を喪失し、国際競争力を失わせていたのではないか。

 資金の流れを「官」が一方的に持つのではなく、市場の規律・市場のガバナンスの下で運用されるようにして、日本経済を再活性化させる。金融市場を正常化させる。郵政民営化には、そうした大きな目的があった。

 そして、政府が保有株を放出するのに合わせて事業範囲を拡大し、郵政事業が自立的に収益性を高め、その力でユニバーサルサービスという公共性も守り、公的な税負担によらずして国民の生活基盤を守るという意義があった。その意義は、今も全く変わっていないはずだ。

「全特」への媚売り合戦に終始した総選挙

 JBpress 今回の選挙で、民営化は否定されたのか?

 生田氏 今回の選挙では、民営化がなぜ必要なのか、その意義について、議論の片鱗すらなかったことが極めて残念だ。色々理由はつけているけれど、各党とも本音のところでは、全国郵便局長会(全特)が非常に大きな票を持っているという錯覚の下に、全特に対する媚売り合戦になってしまった。

 みんながエレベーターに乗って、我先にと下向きのボタンの押し合いをする。「上に向かっていこう」「民営化を実現しよう」という認識も、策も、どの党も示さなかった。本当に、嘆かわしいことだと思う。

 JBpress かつては「自民党の集票マシーン」と言われた全特が、今回は、民主党への選挙協力で大きな役割を果たした。

 生田氏 公社時代まで、特定郵便局長の身分は公務員であり、政治活動は公務員法で禁じられていた。民営化により公務員身分がはずれ、正々堂々と政治活動ができる基盤を作ってしまった。

 もちろん、民間人の政治活動が法律により規制されているわけではない。ただ、銀行の支店長や生命保険会社の支社長・出張所長が別会社のようなものを作り、特定の党のために情報収集したり、無料報酬で政治活動するというのは考えられないことだ。社規・社則などの形で、経営として厳重に律すべきことだと思う。