通常、経済の成長過程では程度の差こそあれ、物価の上昇が観察される。また国境を越えてモノの移動が活発になり、貿易量も拡大する。それが市場参加者の心理的好転をもたらし、株価にポジティブなインパクトを与える。(記事中のグラフも筆者作成)

 ところが、2009年3月以降の世界的な株価反転に対し、物価は下落を続け、貿易量も低迷したまま。明らかに過去の株価回復局面とは様相が異なる。

 株価などの資産価格が上昇すれば、消費マインドを刺激し、それの実体経済への波及が期待される。しかし最近の消費者信頼感指数が物語るように、今回の株価回復でマインドが好転したのは一部の高所得層に限られている。

 適正な物価上昇と物流増加なくして、経済成長なし。この2つが証しとなり、本来は健全な株価形成が実現する。ところが現状は、各国の政府・中央銀行の協調体制が世界経済を下支えし、財政出動による需要穴埋めで世界経済のバランスシートの辻褄を合わせているに過ぎない。

バーナンキFRB議長の楽観論、背景に米企業の収益急回復

FRBバーナンキ議長を再任、米大統領

オバマ米大統領、バーナンキFRB議長を再任〔AFPBB News

 「米国と世界経済は景気後退から脱却し始めた」「経済活動は過去1年にわたり大幅に縮小した後、米国と他の国で底入れしつつあるようだ。短期的なプラス成長への回復見通しも明るい」

 8月21日、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は、世界経済の現状について楽観的な見解を表明した。ニューヨーク株式市場は好感し、S&P500種株価指数は1.9%もの急上昇で応えた。

 金融危機以降、各国の中央銀行は「信用緩和」と「金融緩和」を積極的に行い、世界経済を懸命に支えた。資本市場の緊張緩和を通じて貸出金利の適正化を図り、企業活動に対しても側面支援を講じた。その間に各国政府は財政政策をフル出動し、不足している需要を政府支出で穴埋めした。

 そのおかげで企業はいち早く在庫を減らし、事業の再構築に着手できた。米企業の2009年4~6月期決算は、市場予想を上回る業績を示した。商務省によると、前四半期と比べた増益率は1~3月期が5.26%、4~6月期は5.72%に達する。2008年10~12月期に記録した▲22.76%から、急回復を成し遂げたわけだ。

貿易統計、注目すべきは収支よりも「絶対量」

 ドイツの輸出数量と世界株価指数(MSCI)の動向を視覚化してみた。

 一部期間を除けば、この2つのデータは概ね動きが一致することが分かる。